はじめに
近年、多くの既存し尿処理施設は、老朽化により改築更新の時期を迎えていますが、し尿・浄化槽汚泥の発生量は、下水道の普及と人口の減少により減少しています。
このため、下水道施設の有効活用とし尿等処理の合理化を図る視点から、下水処理場へのし尿等投入が多くの自治体で検討されています。
し尿等の投入に当たり、下水道受入の目安は流入下水量の0.5%(消化脱離液)又は1%(し尿)とされていますが、N-BODの発生による処理水BODの上昇、反応タンクpHの低下、処理水CODの上昇、着色などが懸念されています。
本業務では、し尿等を投入しているN市S下水処理場の処理状況を調査し、活性汚泥モデルにより構築した下水処理場システムモデルを用いて処理状況を検証するとともに、処理水質の確保と省エネルギーの両面を考慮した運転方法の検討を行いました。
調査対象処理場の概要
平成22年度のし尿処理施設の更新時期に合わせて下水道へのし尿等投入を検討し、平成26年度からし尿等の投入を開始したN市S下水処理場に対して調査を実施しました。
処理場の概要は次のとおりです。
(1) 処理方式
オキシデーションディッチ法(以下、「OD法」という)
(2) 処理能力と流入水量実績
・現有処理能力:6,100m3/日(3系列)
・平成17~21年度の投入前(以下、「投入前」という)の流入水量:3,598m3/日【平均】
・平成29年度の投入後(以下、「投入後」という)の流入水量:4,368 m3/日【平均】
(内訳として、下水:3,519m3/日、し尿等希釈液:849 m3/日)
・現在の下水流入率(日平均/処理能力×100%):58%
(3) し尿等の投入量(除さ後)
し尿:7.1kL/日(11%)、浄化槽汚泥:57.5kL/日(89%)、合計:64.6kL/日(100%)
(4) 投入時の希釈倍率と希釈水量及び投入方法
・希釈水:地下水
・希釈倍率:13.2倍(平成29年度)
・希釈水量:784 m3/日
・投入方法:下水流入ピークの9:00~10:00、19:00~21:00以外に、下水管にし尿等希釈液を流量一定投入
(5) し尿等投入率(し尿等投入量/日平均流入下水量×100%)
1.8%
処理状況及び考察
投入し尿等の性状
N市の投入し尿等の性状は、一般的なし尿等から算出した混合汚泥の性状と比較し、SS濃度が比較的近いのですが、BODとT-Pの濃度が高く、CODとT-Nの濃度が低くなっています(表-1)。また、いずれの項目についても、濃度の分布は分散的です。
流入水質
し尿等投入後における流入水の各水質は、投入前より1.2~2.7倍高くなり、その中では、流入水SSは375mg/Lで投入前(138 mg/L)の2.7倍と最も高く、流入水BODは283mg/Lで投入前(158 mg/L)の1.8倍となりました。(表-2)
反応タンク運転条件
し尿等投入後において、反応タンクのHRTとBOD-SS負荷は、平均値として41.9時間、0.033kgBOD/kgSS・日となり、基準値(24~36時間、0.03~0.05kgBOD/kgSS・日)と較べ、余裕がある状況です。MLSSは平均4,933mg/Lで投入前(3,011mg/L)より高い濃度に維持されていました。また、反応タンクでの酸素供給能力は、し尿等投入検討段階で不足が予測されたため、3系列のうち2系列のエアレーション装置を縦軸形に更新した結果、DOは平均1.9mg/Lで投入前(0.5mg/L)より高いレベルで維持できています。一般的にはし尿を投入すると、反応タンクpHが低下することが懸念されますが、対象処理場は、脱窒によるアルカリ度の回収により、pHの低下はありませんでした。なお、し尿等投入によるSVIの動向に関する情報は少ないのですが、対象処理場の実績では、SVIはかなり改善されました(表-3、図-2)。
放流水質
し尿等中の難分解性CODの影響により、投入後の放流水CODは、投入前より1.4mg/L程度高くなりますが、他の水質項目は、投入前より大きな濃度上昇はありませんでした(図-3、図-4)。
省エネルギー運転方法の検討
活性汚泥モデルについて
活性汚泥モデルは、投入検討時に国際水協会(IWA)により提案されたASM2dを用いて構築したもので、対象処理場反応タンクの2ヶ所でローターをKlaのタイマー制御という形により表現し、シミュレーションにおいて、曝気モードと最大DO条件に一致させるようKlaの設定・調整を行いました。
投入検討時モデルの検証及びMLSSを下げる運転における処理水質の予測
投入検討時の下水・し尿・浄化槽汚泥の水質分画に基づき、投入後における高水温期と低水温期の流入水質分画を行い、実績の運転条件によりシミュレーションを行った結果、投入検討時モデルは処理水T-P以外、概ね処理状況が再現できることを確認しました(図-5)。その上で、省エネルギー化のため、MLSSを4,000mg/Lに下げて運転した場合の処理水質を予測した結果、いずれの水質項目も、顕著な上昇はありませんでした(図-6)。