本業務の意義
本プロジェクトの対象都市であるジェリコ市は、パレスチナ西岸地区にあり、ヨルダン渓谷内の死海から北西約14kmに位置し、地球で最も低い海抜下約300mの都市です。本市は、物流上の重要な拠点であるとともに、冬季の温暖な気候を活かして農業が盛んな地域でもあります。2015年現在のジェリコ市とその周辺地区及び難民キャンプの人口は、約40,000人ですが、ヨルダン渓谷の中心都市かつ観光都市としてパレスチナ経済の発展にあわせて拡大し、近い将来大幅な人口増並びに観光客の増加も見込まれています。
生活用水や農業用水の需要量は増加傾向にありますが、この地域の降水量は年間120mmと非常に少なく、生活用水は市内にあるアイン・スルタン湧水に100%近く依存しており、農業用水は同湧水と地下水を使用しています。ジェリコ市における下水管網や下水処理場の公共下水道施設は未整備であり、家庭で発生する汚水は各家庭の敷地内に設置されている浸透槽から未処理のまま直接地下に浸透しており、市街地の衛生環境の悪化や地下水汚染が懸念されていました。また、地下水の塩害化も進行し、農業用水として適さない井戸が増えていました。
このような状況を改善するために、パレスチナ政府は、ジェリコ市の環境改善と下水処理水の再利用を促進する目的で、我が国に無償資金協力を要請しました。これを受け、国際協力機構(以下、JICA)の支援により市内の主要な汚水幹線及び下水処理場に係る施設整備が行われ、2014年6月より供用を開始しています。
本プロジェクトは、上記の無償資金協力で整備された下水道施設が有効に稼働できるよう、住民や利用者の理解を得る広報・啓発活動を行うものです。以下に、本プロジェクトの概要を紹介します。
プロジェクトの紹介
本プロジェクトの業務内容のひとつとして、下水道の接続や料金徴収を促進し、下水処理水の再利用や汚泥の有効利用を進めるために、住民や利用者の理解を得る広報・啓発活動を実施しています。
下水道を普及促進するためには、下水処理の必要性を住民に十分認識してもらうことが重要となるため、パンフレットやチラシ使った勉強会、下水道施設の視察等を実施しています。保健衛生と環境保全に係る内容であるため、地域の首長や村のリーダーだけでなく女性や学校の先生、保健機関のスタッフ、健康問題に関心のある方などにも話し合いの場に参加してもらっており、こうした活動を通じて地域住民の衛生・環境に関する意識の醸成・向上に貢献しています。
また、広報活動の実施にあたっては、ジェリコ市において広報活動が根付くとともに、広報に精通した人材がジェリコ市の内部でも育つよう、専門家チーム(組織・法制度、処理水・汚水再利用、機械設備運転・維持管理、電気設備運転・維持管理、水質管理・管路施設整備・維持管理、住民啓発、財務管理の分野)は助言を行いつつも、あくまでカウンターパート(関係機関)を支援する役割に徹しながら活動を行っています。