プロジェクトトピックス07

遠方監視制御設備の再構築検討業務

下水道事業を取り巻く背景

深刻化する人口減少とそれに伴う自治体の財政難に代表される社会変化や地球温暖化、自然災害の多発といった下水道を取り巻く環境の大きな変化の中で、下水道事業は継続して安定した運営をしていくことが求められており、これらの課題は、「事業執行上の課題」「施設管理上の課題」「災害時などの危機管理上の課題」にまとめることができます。(図-1)

図-1 社会・環境変化と下水道事業の課題


これら下水道事業の各課題を解決するにあたって、下水道施設の多くは地下にあり状況を直接把握することが難しいため、まず、表-1に示すような「見える化」が必要となります。
そのため、本報告ではこれら様々な課題を踏まえ、「見える化」の一環として遠方監視制御設備の再構築について検討を行った事例を紹介します。

表-1 下水道事業の課題に対する解決策と対応

下水道施設遠方監視制御設備の検討結果

1.遠方監視制御設備拠点の再編成

A市の遠方監視制御設備は、当初段階では有人ポンプ場を制御所(遠制親局)として、無人ポンプ場4~5機場を被制御所(遠制子局)とするスター型の構成で構築されていました。(図-2)
有人ポンプ場で遠方監視制御を行うことを前提に、各拠点を下水道光ファイバーケーブルで結び、遠方監視用の通信ルートとしていました。
下水処理場や有人ポンプ場では事務処理で使用するため、下水道だけではなく他部署の光ファイバーケーブル網とも連携させて広域庁内LANを構築していました。
この際、プラント設備の運転状況は、すべてのポンプ場、および下水処理場からデータを収集し、庁内LAN経由で本庁舎へ送信するシステムも構築しました。

図-2 有人ポンプ場を拠点とした段階


その後管理体制の変更を行い、ポンプ場すべてを無人化して下水処理場での一括管理を行うようになりました。
遠方監視制御設備は、有人ポンプ場で使用していた遠方監視制御装置を移設または新設し、下水処理場を制御所拠点とする監視体制に移行しました。(図-3)



図-3 下水処理場を拠点とした段階


これにより、新たに下水処理場への通信ルートが必要となりましたが、下水処理場は光ファイバーケーブル網の末端であったため、従来のように、制御所と被制御所を1:1で接続することが困難であり、光ファイバーケーブルの布設替え工事には多大な費用がかかります。
そのため、光ファイバーケーブルの新設は下水処理場の引き込み等最低限とし、制御所であった旧有人ポンプ場に新たな通信機器を導入、ルーティング技術などを使用して安価に通信経路を確保する光ファイバーケーブル網の再構築方法を提案しました。(図-4)



図-4 B下水処理場系統 光ファイバーケーブル網の再構築



次段階として、ポンプ場の維持管理の外部委託化が進められ、下水処理場やポンプ場とは別の場所に制御所を集約することになりました。
数ヶ所の下水処理場所掌ポンプ場をまとめるため、さらなる光ファイバーケーブル網の再編成が必要となりました。(図-5)

図-5 ポンプ場維持管理の外部委託による新制御所を拠点とする段階



この段階では、庁内LAN内で混在していた事務処理用芯線とプラント制御用芯線をセキュリティ装置で分離し、外部のみならず庁内LANからもプラント系ネットワークへ不正アクセスできないようセキュリティの強化も行いました。

2.遠方監視制御装置の進歩

遠方監視制御は、今日では維持管理の効率化には欠かせないものとなっています。通信装置も年々進歩し、高性能で多彩な通信手段にも対応できるようになりました。 通信方法も、従来はテレメータ装置またはシーケンスコントローラ同士、独自の通信を行っていたため、それぞれ専用の通信回線が必要でしたが、ICT技術の導入により、現在では監視制御設備においてもイーサネットなど汎用的な通信プロトコルが利用可能となっています。
一方、それまで使用していた光ファイバーケーブル芯線の中で、事務処理系芯線が不要となったことやルーティング技術の導入によりプラント設備の遠方監視制御に使用しなくなった芯線も発生し、空いた芯線の有効活用が今後の課題となりました。 A市では、1機場あたりのプラント監視制御用として、2芯1組の光ファイバーケーブルを制御、芯線管理、画像2組、予備の計10芯をひとまとめにして計画を行っていました。しかし現在では、前述のようにICT機器の採用により信号を多重化でき、1組の芯線で制御信号も画像信号も送受信が可能になったため、光ファイバーケーブルに空き芯線が発生することとなりました。(図-6)

図-6 光ファイバーケーブル利用方法の変化

3.さらなる維持管理の効率化に向けて

A市では、さらなる維持管理の効率化に向け、幹線水位の変化を監視して下水処理場の待機型ポンプの運転制御の実現性を検討することになり、空き芯線となった光ファイバーケーブルに水位計を接続して試行運用することになりました。 水位計の選定にあたっては、マンホール用水位計など他の水位計も考慮しましたが、水位計の電源確保や通信手段の制約、水位計設置場所付近に制御盤が必要となるなど、困難な条件が多く採用することができませんでした。 一方、光ファイバー式水位計は、末端の光源から光を供給するためセンサ部には電源や電送機器は不要であり、また、小型軽量なので標準人孔や小さな管径の下水管にも設置可能だったため、これを採用しました。

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