プロジェクトトピックス05

浸水対策計画策定業務
―複数都市が管理する都市下水路を対象として―

本業務の意義

複数都市が管理する都市下水路において、大雨時に最下流都市での浸水被害が発生しており、浸水被害軽減が課題となっている。
当該都市下水路では、関連する各市合同による抜本的対策として調整池の設置が計画されているものの、調整池の設置には関連市における協議や用地の確保等に時間を要することや、対策施設に膨大な費用を要することなどから、対策が実施されていない状況にある。

今回の検討では、最下流都市において独自に取り組める浸水被害軽減対策を検討し、その効果をシミュレーションにより検証した。

対象都市下水路及び被害状況の概要

都市下水路の概要

3市が管理する都市下水路は、流域面積1,927ha、延長9.46kmであり、最上流のC市から、B市を経て、最下流のA市を流れ、A市の用水路伏越部分より一級河川へ流れ込んでいる。

今回検討対象は、都市下水路の最下流に位置するA市の排水区331haであり、排水区からは雨水第1幹線を経て都市下水路へ流出している。

浸水被害の概要

A市排水区の浸水被害実績を図-1に示す。道路冠水については、排水区内に点在しているが、床下浸水、床上浸水の報告は、都市下水路沿いの低地部に集中している状況である。

図-1 浸水被害状況


浸水要因と浸水被害軽減対策

浸水要因

浸水要因を特定するため、現況施設に対して排水区をモデル化し、浸水シミュレーションを行った。シミュレーションモデルには、『InfoWorks ICM』(旧InfoWorksCS1))を使用した。
現況排水区におけるシミュレーションの結果、浸水の原因は、原因①都市下水路の水位上昇に伴う背水の影響、原因②堤内地における流下能力不足、と特定することができた。

対策案の検討

対策方針は原因①に対しては、「背水影響の緩和」、「放流先水位の低減」、原因②に対しては、「堤内地における流下能力の確保」とした。具体的な対策の概要は以下のとおりである。

(1)フラップゲートの設置(背水影響の緩和)

都市下水路及び雨水第1幹線へ放流している管きょにフラップゲートを設置して背水の影響を遮断する対策について検討した。フラップゲートを設置することで、浸水被害の軽減が確認できる。しかし、用水路伏越改修の対策ほどの効果は得られないこと、内水を排除できない系統があることが確認できた。内水排除ができない系統はポンプ施設の設置等の対策が必要である。

(2)用水路伏越改修(放流先水位の低減)

都市下水路の水位上昇は用水路伏越の構造に起因するものであったため、図-2に示す改修計画をモデルに反映してシミュレーションを実施した。検証の結果、浸水被害軽減効果が十分に得られた。効果検証の詳細は次節で述べる。

図-2 用水路伏越の改修計画

(3)調整池設置(放流先水位の低減)

合理式を用いて試算された必要貯留量は3市分で346,000 m3(A市分63,000m3)と計画されていた。本検討では都市下水路のシミュレーションモデルを用いて必要貯留量の算定を行った。検証結果を図-3、表-1に示す。許容放流量に対しては3市分215,000m3、(A市分39,000m3)現況流量に対しては3市分123,000m3(A市分22,000m3)なり、既計画の約3分の1の規模に縮小することができた。

図-3 調整池規模の検討
表-1 調整池規模の検討

(4)内水ネック箇所の解消(堤内地における流下能力の確保)

ネック箇所の流下能力の確保については、用水路伏越の改修による都市下水路の背水の影響を解消した後に、フラップゲート設置(ポンプ施設を含む)と合わせて浸水が発生する場合に局所対策として実施することが効果的である。
以上の対策を表-2にまとめて示す。費用、事業期間の面からも、用水路伏越改修の対策が最も効果的であると判断できる。また、抜本的な対策である調整池の設置については、3分の1の規模に縮小することができたため、事業費縮減に寄与することができる。

表-2 対策案のまとめ



対策案の効果検証

(1)計画降雨による検証シミュレーション

用水路用伏越改修前後のシミュレーション結果を図-4、図-5に示す。シミュレーション結果から、用水路伏越改修により浸水被害がかなり軽減することが分かる。

図-4 現況シミュレーション
図-5 伏越改修後シミュレーション

(2)一定長時間降雨による検証シミュレーション

現況モデルと用水路伏越改修を行ったモデルに対して、一定強度の降雨を長時間継続させたシミュレーションを行い氾濫危険水位に達するまでの時間を検証した。降雨強度を20、25、30、35、40mm/hrと変化させた場合の都市下水路流末における水位の時系列変化を対策前後で比較して図-6に示す。
現況モデルでは20mm/hrの降雨でも氾濫危険水位に達するが、対策後は概ね25mm/hrの降雨では氾濫危険水位に達しない結果となった。 氾濫危険水位に達する時間は、30mm/hrの降雨では、現況約2.5時間が対策後約5.5時間に、35mm/hrの降雨では現況約2時間が対策後約3時間に伸び、浸水安全度が大きく向上していることが分かる(表-3)。

図-6 一定降雨における降雨強度ごとの水位変化
表-3 氾濫危険水位に到達するまでの降雨継続時間

おわりに

本報告で得られた結果は以下のとおりである。

  1. 用水路伏越の改修により大幅な浸水軽減効果が得られる
  2. シミュレーションモデルでの調整池規模算定により、大幅に縮小することができた
  3. 一定長時間降雨でのシミュレーションにより、長時間降雨に対する対策効果を分かりやすく表現することができ、浸水安全度向上の評価を住民等にアピールすることができる

【参考文献等】 1) 流出解析モデル利活用マニュアル 2006 年3 月 日本下水道新技術機構

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