トピックス  No.19 08/07/14  最終更新:11/11/21

自治体ホームページにおける下水道事業経営のPR度

 建設から維持管理・運営の時代に入って、下水道事業経営の現状と将来見通しを住民にわかりやすく説明し、理解してもらうことがますます重要になっています。一般会計と特別会計の連結評価という行財政改革の流れから見ても、下水道事業特別会計の状況がこれまで以上に注目され、また情報開示が求められることになるでしょう。2008年4月にテレビ放映されたNHKスペシャル「大返済時代~借金200兆円 始まった住民負担~」でも、下水道事業が抱える債務が自治体財政に深刻な影響を及ぼしている現状が詳しく報道されたところです。
 各自治体のホームページで下水道事業の経営や財政状況がどの程度取り上げられ、説明されているのか、またその中でも「これはわかりやすい」というものはどれか、現状を整理しましたのでご報告します。

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■下水道経営における広報の重要性


 下水道は、道路と同じように不可欠な社会基盤施設でありながら直接目に触れる機会が少なく、しかしサービスの対価として使用料を徴収することで事業経営が成り立っています。それだけに住民には、下水道そのものを知ってもらうだけでなく、事業経営の状況についてもきちんと理解してもらうことが大切といえるでしょう。
 下水道事業について各自治体がホームページ等で行っている広報を見ると、これまで建設に注力してきたこともあってか、整備の実績や効果、工事の計画、接続のお願い、下水道の使い方といった、下水道のシステムを良く知ってもらうという目的に重点が置かれているようです。その反面、事業経営の現状と将来見通しについてはどちらかというと別の世界の話、と扱うような傾向が見られます。これは、下水道事業の公共事業としての側面(浸水の防除や公衆衛生の向上、水域の水質保全など)を重視していることを反映しているものと考えられます。

 総務省は、下水道事業特別会計に対して一般会計から繰入れ(税金投入)を行う場合、その根拠と範囲を定めた一般会計繰出基準を通知しています。この基準を超える一般会計繰入金は基準外繰入金と呼ばれ、政令市など大都市を除くほとんどの市町村の下水道事業特別会計で多額の基準外繰入金を受けているのが現状です。本来下水道使用料で賄うべき経費を一般会計が補填していることから、財政難の自治体にとってはその早期解消が急務となっています。
 基準外繰入金の投入がこれまでどおりには期待できない現状では、下水道事業特別会計における資金不足額の補填財源は基本的には下水道使用料となります。資金不足は、過去の借入金に伴う元利償還費が原因で、単年度の一過性のものではありませんから、税金で補填するにせよ使用料の値上げで補填するにせよ、議会や住民に経緯と現状、また将来の見通しを良く説明し、理解を求める以外に方法はありません。

 平成19年6月に出された国土交通省の社会資本整備審議会(都市計画・歴史的風土分科会都市計画部会下水道小委員会)の提言「新しい時代における下水道のあり方について」では、経営の計画性を確保し、また経営基盤を強化するために住民の理解を得ることの重要性に触れ、次のように述べています。
◆「業績指標(PI:Performance Indicators)の公表も含め、経営に係わる情報開示など経営の透明性向上の取り組みを推進するべきである。」
◆「経営計画に基づく経営健全化の取り組みを推進するため、下水道法に定める『事業計画』の策定にあたっては、平行して経営計画の策定を求めることとし、これを含めた『事業計画』の住民への公表を求めること。」


■下水道経営の広報のあり方


 自治体ホームページの中には、図や表を添えて下水道経営の現状をわかりやすく説明しているものがある反面、下水道使用料や受益者負担金の料金計算や納入方法等の事務手続きを書いただけのものもあり、実に千差万別です。

 諸外国の例として、このホームページのトピックス「アメリカにおける下水道ホームページのPR度」における調査結果では、米国内143自治体の下水道ホームページの中で財務経営情報を掲載しているものが52団体(36%)ありました。同じことをフランス国内の自治体で見てみると、主要22都市で財務経営情報を掲載しているものは実に0団体で(トピックス「フランスでは下水道がいかに民間化されているか」を参照)、限られたサンプルとはいえ、米仏二国間で大きな差が見られました。アメリカでは、人口増に追随するため建設投資が未だに旺盛で、資金調達のためのIR活動(Investor Relations)の一環として広報に力を入れている一方、フランスでは、一次的な建設投資は既に完了しており、使用料の平均水準も1m3当たり約250円と高く採算性は良好と考えられることから、改めて下水道経営の現状を説明するまでもない、ということがその原因と考えられます。
 わが国の下水道事業の現状をおしなべていうと、維持管理・運営の時代に移行しつつあるが、使用料の水準は処理原価よりもかなり低く抑えられている、ということになるかと思います。こうした現状はアメリカともフランスとも異なっており、下水道事業の公共性という理念も混線して、経営状況をいかに広報するか、そのあるべき姿に実は理想的なモデルがないともいえるでしょう。

 下水道事業を自治体で実際に担当してきた方々からすれば、国の政策的支援と首長の施策判断のもと、下水道の早期整備を求める住民の要望に応えながら、水域の水質保全等の公共目的を達成するため、毎年度懸命に整備を進めてきたという自負があるでしょう。親元の一般会計の財政が厳しくなったからといって、掌を返したように赤字を何とかしろ、まずはきちんと経営状況を住民に説明せよ、と言われても反発を覚えるばかりと思います。
 しかし、公共下水道事業は、周知のとおり地方財政法上の公営企業の一つであり、公費で負担すべき部分はあるものの、基本的には独立採算原則のもとで営むべきであるということは紛れもない事実です。巨額の債務を抱えているとはいえ、将来のキャッシュフローで必ず回収できるとか、あるいはわが町では公共事業として使用料の水準をこれまでどおり低廉に抑え、税金投入で運営していく、といったような見通しや方針を現状と合わせて説明することは、一般会計と特別会計の連結で自治体財政の健全度が評価される今般の情勢下では、下水道管理者の最低限の責務と思われます。

 なお、平成20年9月に日本下水道協会(国土交通省)から都道府県経由で各自治体に通知された「下水道経営の健全化のための手引」(下水道事業に係る経営問題検討会編)では、下水道事業の経営改善方策について住民の意見を聴取する際の留意点を次のように整理しています。
◆下水道事業の直接的・間接的な効果について情報を分かりやすく提供する。ここで間接的な効果とは、湖沼等の水質改善による地域全体の観光振興や企業立地などの外部経済効果が例示されています。
◆行政からの一方向の情報提供だけでなく、住民との対話やコミュニケーション(パブリックインボルブメントの実施、住民代表の参加する審議会の開催、自治会等との意見交換など)を行う。
◆住民がいつでも容易に入手できるような環境を整備する。HPへの掲載、ケーブルTVの活用(情報弱者に配慮)、下水道の管理状況を表すPI(業務指標)の活用など。



■下水道ホームページの閲覧方法


 それでは、下水道事業経営の現状や将来見通しについて、各自治体のホームページでどのように広報がなされているのか。次の要領で閲覧し、評価を行いました。

◆対象とした自治体
 公共下水道事業(特定環境保全公共下水道事業を含む)又は集落排水事業を供用開始している全国の市(754市)を対象としました。
◆確認した項目
 経営に関連する項目として、次の四つの有無を確認しました。
 ①料金関係(下水道使用料、受益者負担金・分担金)
 ②予算・決算の状況
 ③経営指標(処理原価、使用料単価、回収率等)
 ④経営計画(繰上償還に伴う経営健全化計画、中期経営計画、使用料改定に伴う財政収支計画資料等)

 このうち「②予算・決算の状況」については、まず予算か決算のいずれかが下水道関連のページに明示されている場合に「可」としました。また、財政部局のページに一般会計の予算・決算に添えて掲載されている場合は(多くがそうですが)、単なる歳入・歳出額の表示だけでなくグラフ化したり説明を加えるなど何らかの工夫を施している場合に限って「可」としました。これは、一般の住民ユーザーにとって、下水道以外のページに下水道の予算や決算が掲載されていること自体なかなかわからないであろうことから、そこまで辿り着いた方にはそれなりの丁寧な説明があって然るべきであろうという考え方によるものです。

 また「③経営指標」については、毎年度の決算値に基づき、処理原価、使用料単価、回収率(公営企業の場合は自己資本構成比率、流動比率、企業債償還額対減価償却比率等)といった経営指標を算出し、過去の推移や今後の見通し、他都市との比較等何らかの評価を行っている場合を「可」としました。

 また「④経営計画」については、総務省の指導(平成17年3月29日付通達『地方公共団体における行政改革の推進のための新たな指針』)により全国の自治体で作成・公表された「集中改革プラン」の中で、下水道事業が取り上げられていることがあります。この場合は、下水道関連のページに当該「集中改革プラン」へのリンクが貼ってあったり、下水道事業に関する部分を切り分けて掲載している場合に限って「可」としました。これは、集中改革プランの中に下水道に関する内容も掲載されていることは一般住民は通常知り得ないため、これをマイナス評価としたものです。なお、平成19年度に総務省で制度化され、平成20年度から適用されている「公的資金補償金免除繰上償還制度」に係る「公営企業経営健全化計画」については、各会計別に作成するようになっていてキーワード検索も比較的容易であるため、下水道関連ページに掲載されていない場合でも「可」としました。


■下水道ホームページの閲覧結果


 全国754市における下水道経営関連コンテンツの有無を各都道府県単位で集計した結果は図1、表1のとおりです。全国平均で見ると、①料金関係は89%(668団体)、②予算・決算は17%(125団体)、③経営指標7%(50団体)、④経営計画62%(465団体)となりました。



  図1 全国754市における下水道経営関連コンテンツの掲載割合
   (全市が全項目を掲載している都道府県では、1.0(100%)×4項目=4.0となる)

 ①料金関係は、調査した4項目では最も高い割合となっています。住民の日常生活に直結するものであることを考えると当然といえますが、それでも89%にとどまっているのは、市町村合併等により複数の体系が併存している場合、誤解を避けるために詳細は問い合わせとしているケースや、下水道事業を一部事務組合で実施しているためにそもそも下水道のページがないといったケースがあるためです。広報の方法は、もちろんホームページに限られたものではなく、特に料金のような支払いを「お願い」する内容については、広報紙に掲載したり、戸別に訪問するといった方法が有効な場合もあります。ただ、人口の移動が多い自治体では、新しく住民になる方のためにホームページに簡単な案内程度は掲載しておく方が良いでしょう。

 ③経営指標については、2007年3月に「下水道維持管理サービス向上のためのガイドライン(2007年版)」が日本下水道協会から出版されているところです。また2007年12月に制定された上下水道サービスに関する国際規格(ISO24510、ISO24511)では、水サービスの評価ツールの一つとしてPIシステムが位置づけられており、既に2003年にIWA(国際水協会)から "Performance Indicators for Wastewater Services" が出版されています。現時点では残念ながら、このいずれについてもあまり活用されていないようです。下水道事業では企業会計方式による地方公営企業法の法適用企業と官庁会計方式による法非適用企業が混在しており、他都市と横並びで経営指標の比較が行いにくいことも原因の一つと考えられます。

 ④経営計画は62%と過半数となっていますが、ほとんどが上記の「公的資金補償金免除繰上償還制度に係る公営企業健全化計画」を掲載しているものです。これ以外に独自の経営計画を掲載している市は、政令市を除けばその数は多くありませんでした。

  表1 全国754市における下水道経営関連コンテンツの掲載数と割合
都道府県 料金 予算決算 経営指標 経営計画
北海道(35市) 35(100%) 12(34%) 2(6%) 28(80%)
青森県(10市) 8(80%) 0(0%) 0(0%) 8(80%)
岩手県(13市) 11(85%) 2(15%) 0(0%) 9(69%)
宮城県(13市) 13(100%) 2(15%) 1(8%) 13(100%)
秋田県(13市) 7(54%) 1(8%) 1(8%) 9(69%)
山形県(13市) 12(92%) 0(0%) 0(0%) 11(85%)
福島県(13市) 11(85%) 0(0%) 0(0%) 8(62%)
茨城県(31市) 27(87%) 4(13%) 2(6%) 16(52%)
栃木県(14市) 11(79%) 1(7%) 0(0%) 11(79%)
群馬県(12市) 11(92%) 2(17%) 2(17%) 9(75%)
埼玉県(40市) 35(88%) 4(10%) 2(5%) 30(75%)
千葉県(30市) 28(93%) 8(27%) 4(13%) 12(40%)
東京都(1都26市) 24(89%) 5(19%) 1(4%) 17(63%)
神奈川県(19市) 19(100%) 4(21%) 4(21%) 11(58%)
新潟県(20市) 19(95%) 1(5%) 1(5%) 11(55%)
富山県(10市) 10(100%) 3(30%) 2(20%) 9(90%)
石川県(10市) 8(80%) 1(10%) 0(0%) 9(90%)
福井県(9市) 8(89%) 3(33%) 1(11%) 4(44%)
山梨県(13市) 12(92%) 0(0%) 0(0%) 6(46%)
長野県(19市) 19(100%) 2(11%) 1(5%) 14(74%)
岐阜県(21市) 18(86%) 4(19%) 3(14%) 14(67%)
静岡県(22市) 21(95%) 8(36%) 2(9%) 11(50%)
愛知県(33市) 31(94%) 4(12%) 1(3%) 16(48%)
三重県(14市) 7(50%) 5(36%) 3(21%) 7(50%)
滋賀県(13市) 12(92%) 1(8%) 0(0%) 8(62%)
京都府(15市) 15(100%) 2(13%) 1(7%) 8(53%)
大阪府(33市) 31(94%) 10(30%) 4(12%) 24(73%)
兵庫県(29市) 25(86%) 6(21%) 2(7%) 18(62%)
奈良県(12市) 12(100%) 0(0%) 0(0%) 7(58%)
和歌山県(4市) 2(50%) 1(25%) 1(25%) 3(75%)
鳥取県(4市) 4(100%) 0(0%) 0(0%) 3(75%)
島根県(8市) 8(100%) 1(13%) 0(0%) 3(38%)
岡山県(15市) 12(80%) 4(27%) 3(20%) 4(27%)
広島県(14市) 13(93%) 2(14%) 2(14%) 5(36%)
山口県(12市) 12(100%) 2(17%) 0(0%) 8(67%)
徳島県(7市) 4(57%) 0(0%) 0(0%) 2(29%)
香川県(8市) 8(100%) 1(13%) 0(0%) 7(88%)
愛媛県(11市) 11(100%) 4(36%) 1(9%) 6(55%)
高知県(9市) 4(44%) 1(11%) 0(0%) 7(78%)
福岡県(26市) 25(96%) 6(23%) 0(0%) 15(58%)
佐賀県(10市) 9(90%) 1(10%) 0(0%) 4(40%)
長崎県(9市) 8(89%) 1(11%) 1(11%) 5(56%)
熊本県(14市) 12(86%) 1(7%) 1(7%) 12(86%)
大分県(13市) 6(46%) 0(0%) 0(0%) 6(46%)
宮崎県(8市) 8(100%) 2(25%) 0(0%) 3(38%)
鹿児島県(15市) 12(80%) 2(13%) 1(7%) 7(47%)
沖縄県(11市) 10(91%) 1(9%) 0(0%) 7(64%)
全国計(754都市) 668(89%) 125(17%) 50(7%) 465(62%)


■「これはわかりやすい」広報事例


 ホームページを閲覧している中で、「これはわかりやすい」と感じた広報事例の一部をご紹介します。

◆仙台市
 予算・決算の概要と詳しい説明資料を添付しているほか、「財布の中身は?(財政)」というコラムを設け、年間1000万円の収入がある工場に例えて収入と支出の内訳を概念図で説明しています。(参照:仙台市建設局ホームページ
 
◆柏原市(大阪府)
 これまでの整備の経緯を踏まえた起債残高・償還費をグラフで説明しているほか、汚水処理費用の財源別(使用料と一般会計繰入金)推移をグラフ化しており、現在市が置かれている状況が過去とのつながりの中でわかりやすく把握できるよう工夫されています。(参照:柏原市下水道ホームページ

◆前橋市(群馬県)
 企業会計方式による経理を行っており、毎年度の財務諸表に加え、キャッシュフロー計算書も作成・公表しています。また、企業債残高と元利償還費については、これまでの推移と平成51年度までの見通しをグラフ化して掲載しています。(参照:前橋市水道局ホームページ

◆笠岡市(岡山県)
 総務省が毎年度作成・公表している「下水道事業経営指標」に準じて、各指標の類型別平均値との比較分析を行っています。(参照:笠岡市下水道ホームページ)


 なお、経営工学研究所では、上水道事業、下水道事業を対象とした簡易経営診断を実施しております。公表されている統計資料に基づき、多面的な切り口から類似他都市等との比較分析・評価を行うものです。ご希望の場合は、お電話又はこのページ左上の「お問い合せフォーム」よりお問い合せ下さい。



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