トピックス  No.23 08/11/04 

覆面座談会(第六弾):管路資産の付加価値を上げるには(その2)

2008年10月30日 木曜日 10:00~11:30
  出席者:経営工学研究所、経営企画本部から ■、●、◇、▲、◆、○

 全国で約100兆円といわれる上下水道資産のうち、管路施設はその約7割の約70兆円と膨大なものです。その機能と利用価値を高める方法があれば、国民経済的にも大いにプラスになるところです。今回は、前回の座談会を受けて、微生物などを固定化した担体を下水管の上流から流して、下流で回収する方法の可能性やイメージをもう少し「現像」してみました。

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■包括固定化担体

○包括固定化担体というのは、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、寒天-アクリルアミドなどを原料として微生物を封じ込めたもので、大きさは3~5mm位で球状又は立方体のものが多いようです。下水処理で使う際には、水温の低下に強いとか、硝化菌など増殖速度が遅い菌の滞留時間を長く取れる、処理速度が上がる、汚泥の発生量が減るといったメリットがあります。

●包括固定化された微生物は、実際にどれ位の期間活性を保っているんですかね。下水の中には様々な微生物がいるわけで、固定化された特定の微生物だけが担体の中で活性を保ち続けるというのは無理がある気がする。少なくとも一定の期間を置いて担体を取り替えていくことが必要なんじゃないだろうか。

■包括固定化担体は、かなり確立した技術で、担体を取り替えなくても実際にきちんと機能するようだ。包括固定化法というのは、微生物をあらかじめ担体の中にセットしてしまうものだが、微生物を担体に付着する方法には、このほか、微生物の付着を待つ結合固定化法というのもある。包括固定化法は、封じ込めた微生物が流出しないだけでなく、システムを立ち上げてから安定するまでの時間が短いというメリットがある。それぞれに特徴があるので、目的に応じて使い分けるということだね。

●担体によって汚泥の発生量が減るというのはどういうメカニズムだろう。

○担体の中は微生物の密度を高く保てるので、内生呼吸が進んで微生物が自己分解するということでしょう。

◇管路の上流から下流まで担体を流すことを考えると、流下時間は高々1日以内なので、包括固定化法の方が適しているし、逆に結合固定化法では流下時間内で微生物が十分付着できないので無理でしょう。

■担体について補足すると、微生物の固定化に適した条件には4つあって、①微生物が特異な機能を持っていて、その存在によって処理に付加価値が出る場合、②微生物の増殖速度が遅く、固定化しないと流出してしまう場合、③負荷変動が大きい場合(緩衝機能がある)、④生物反応を阻害・抑制する物質が流入する場合、にメリットがあるといわれている。また、担体の素材について整理すると、①固定化後の菌の活性が高い(菌に対するポリマーの毒性が小さい)、②親水性があって常温で固定化できる、③排水中の基質の透過性がよい、④安価で耐摩耗性が高い、⑤比重が1より少し小さく、比重調整が簡単にできること、といった条件をクリアする必要があるようだ。現在商品化されている担体は、だいたい10年以上は保つようなので、摩耗については管内を流下させた場合でもそれほど気にする必要はなさそうだね。


■えひめAI、EM(有用微生物群)

◆えひめAIというのは、愛媛県産業技術研究所(旧愛媛県工業技術センター)が2000年に開発した「環境浄化微生物」で、「酵母・乳酸菌・納豆菌を主体に糖蜜等を用いて独自の製法で発酵培養させた酵素を含む複合微生物」と説明されています。えひめAI-1とえひめAI-2という二種類があって、えひめAI-1の方は排水処理や堆肥製造などの業務用で、えひめAI-2は家庭用で作り方も公開されています。比嘉照夫氏(名桜大学教授)が1982年に開発したEM(編注:Effective Microorganisms(有用微生物群)の略で、自然界に存在する微生物のうち光合成細菌、乳酸菌、酵母菌など人間や自然環境にも役立つものを集めて培養したもの)と基本的に同じような性質のものと考えて良いでしょう。

◇資料をみると、えひめAI-1を水処理施設で使う場合は、曝気槽の汚泥濃度(MLSS)を可能な限り高めること、通性嫌気性菌が働きやすい環境を作るため溶存酸素濃度を可能な限り低く抑えること、汚泥の返送率を100%以上にすることが管理のポイントとされていますね。

■系内で高密度に保持することだけを考えれば、包括固定化法で担体に封じ込めればいい。溶存酸素濃度が低めの方がよいというのもむしろ好都合だ。各々の菌の増殖速度にもよるけれど、もし増殖がゆっくりしたものであれば、まさに固定化に適した条件ということになる。これを下水管の上流から下流に流した時にどの程度の効果があるのか、是非実験してみたいね。


■光触媒

▲光触媒は、もともとの酸化チタンをベースとして色々なものが開発されています。例えば、2002年と少し古いんですが、産業技術総合研究所が開発した新規酸化チタン光触媒というのは、従来の酸化チタンに鉄系酸化物を複合したものと説明されています。これを通常の汚水(CODで約60mg/L)に添加して、晴天日と同じ位の紫外線を照射しながら撹拌すると、1時間以内で6mg/L以下に浄化できたそうです。また、前回の座談会で話の出た、大阪市立工業研究所が開発した「無光触媒」(リン酸チタニア)は、既に各社が様々な商品名で製品化していますが、いずれも防汚、消臭、抗菌のためのコーティング剤という位置づけで、新規酸化チタン光触媒ほどの強力な酸化機能は期待できないようです。

◇強力な酸化作用によって、水中の微生物も一緒に死んでしまうという心配はないだろうか?

▲有機物が沢山ある中では、そっちの分解に食われるので、影響はそれほどないんじゃないかと思います。あと、㈱光触媒研究所が製品化している光触媒シリカゲルというのは、粒径1.7~4mmと微生物の包括担体と同程度のサイズです。耐摩耗性など材質の確認が必要ですが、管内に流す担体もこうした光触媒の担体や微生物の担体を混合して流せば、より大きな効果が出るんじゃないでしょうか。

■前回の座談会で話に出た島根大学や㈱イズコンのリン吸着コンクリートも、大判のサイコロ位の大きさにして一緒に流せばリンも回収できるね。担体と下水中の夾雑物と水、また複数の担体を分離する方法が問題になるけど、材質や粒径、比重を工夫すれば何とか対応できるんじゃないかと思う。

■下水道法の第24条は「行為の制限等」という条項で、下水管渠内に施設や構造物を設置することに制限を設けている。光ファイバーなど事業用の電線を固定する場合を除いて、第三者に施設や工作物を設置させてはならないことになっているが、小さな担体を流すのであれば何ら問題はないでしょう。担体をどこで入れてどこでどうやって取り出すか、どんな担体を入れるか、曝気をどうするか、といった技術的な問題もさることながら、ビジネス的にもいろいろな使い途が考えられる。課題はまだ多いけれど、工夫や提案、評価の局面は多そうだ。

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