はじめに
下水処理場では、曝気や輸送過程において膨大な電力を消費しており、電力消費量の削減等の省エネルギー化は、維持管理コストの縮減だけでなく温室効果ガス排出量削減の面からも効果があると考えられます。
本業務では、下水処理シミュレータBioWin(活性汚泥モデル)により構築したモデルを用いて、「通常時の最適な運転方法」の検討や「段階的高度処理の導入時」、「雨天時の水量増加時」といった運転方法の変更を想定したシミュレーションを行うことで、法令水質基準を遵守は基より、省エネルギーの観点から最適な運転方法を検証することを目的としています。
対象施設
対象である京都市上下水道局が管理する石田水環境保全センターは、京都市域の東南部、山科盆地の石田地区に位置しており、分流式下水処理場として、昭和56年1月に供用開始しています。
平成25年度から、発生する汚泥を鳥羽水環境保全センターへ圧送し、他処理場汚泥とともに集約処理を行っています。本処理場は、下流域の水道水源の保全や大阪湾の富栄養化防止のために、現在は、A系列のみ高度処理化(ステップ流入式多段硝化脱窒法)にて処理しています。
石田水環境保全センターの概要を表1に示します。
モデル構築
本業務で構築した、石田水環境保全センターのプロセスモデルを図1に示します。
水処理フローは、処理場流入、汚水ポンプ、系列ごとに最初沈殿池→反応タンク→最終沈殿池、塩素混和池、処理場放流までをモデル化しており、水処理への分離液・脱水ろ液の返流はモデル化していません。(鳥羽水環境保全センターへ全量送泥のため)
キャリブレーション
モデルのキャリブレーションでは、以下の3つの運転方法にて再現を行いました。
(1)冬期・夏期運転の再現
平成26年度~平成28年度の処理実績より、反応タンクの水温が最低となる2月(冬期)と、最高となる8月(夏期)について、水質(SS、BOD)の検証を行いました。流入条件を表2に、実績と計算結果の比較を図2~図 4に示します。
結果より、BODおよびSSの計算値は、各系の処理水および放流水において、実績値との差が約0.5mg/L以内で再現しており、冬期・夏期の水温変化に伴う処理水質の変化についても再現を確認しました。
なお、キャリブレーションは、流入水の分画や固形物回収率等にて調整を行いました。
(2)同時硝化脱窒運転の再現
本処理場では、NADH計を活用した風量制御の調査研究(*1*2) 、 に着手しており、平成29年度に実施した同時硝化脱窒運転の手動風量調査結果を元にモデルの検証を行いました。キャリブレーションはNADH計を設置しているD系列(標準活性汚泥法)を対象とし、各槽ごとの窒素濃度について検証しました。流入条件を表3に、実績と計算結果の比較を図5に示します。
結果より、処理過程における硝酸性窒素(NO3-N)の増加傾向が、実績値と計算値で整合していることから、硝化反応の再現が確認できました。また、槽内の全窒素量の減少傾向より、送風量を制御した反応タンクにおける脱窒反応についても再現の確認を行いました。
なお、キャリブレーションは、硝化細菌および従属栄養生物の増殖速度に関するパラメータにて調整を行いました。
(3)雨天時運転の再現
近年の水質実績のうち、降雨の影響が大きいと予想される平成27年8月20日の結果を元に、雨天時における流入水量の一時的な増加を見込みモデルの検証を行いました。キャリブレーション条件を表4に、実績と計算結果の比較を図6~図8に示します。
結果より、SSの計算値は、各系の処理水および放流水において、実績値との差が0.5mg/L以内で再現しており、T-Pの計算値についても、各系の処理水および放流水において、実績値との差が0.05mg/L以内での再現を確認しました。
検討方針
前述の3つの運転方法の検証結果から、今後、以下の検討への活用が考えられます。
Ⅰ.通常時運転における運転管理方法の検討
「(1)冬期・夏期運転の再現」より、年間を通したモデルの妥当性を確認しました。これにより年間の想定シミュレーションが可能であり、今後は、通常時の運転管理方法の検討を行い、エネルギー削減効果の検証を行います。
Ⅱ.段階的な高度処理計画への対応
「(2)同時硝化脱窒運転の再現」より、高度処理(脱窒)に関するモデルの妥当性を確認しました。これにより,目標水質達成に向けた運転管理方法の検討を行うことが可能であることから、今後は、高度処理移行後を想定し、省エネルギーの観点から運転方法の検証を行います。
Ⅲ.雨天時の運転管理方法の検討
「(3)雨天時運転の再現」より、流入水量・水質の変動時におけるモデルの妥当性を確認しました。雨天時における流入水の水量・水質の特性を調査することで、雨天時の運転方法の検討を行います。
Ⅳ.改築工事等に伴う施設停止への対応
改築工事等に伴い施設が停止する場合を想定したシミュレーションを行い、工事期間中の運転管理方法の検証が可能です。
おわりに
構築したモデルは、法令水質基準や総量規制などの「水質管理」と反応タンクの送風量調整といった「エネルギー管理」をシミュレーションによって同時に検証することが可能であり、今後は、「窒素・りんの総量規制が係る処理場の水質管理」、「し尿投入・バイオマス等の広域化などに伴う高濃度返流水の水処理への影響の検証」、「ノリ養殖など季別運転を行う処理場の排水水質のコントロール」、「既設プラントのシステムフロー見直し検討」、「運転管理者や研修生の教育訓練」等への活用が期待されます。
今後も引き続き長期的な変動も含めたデータ収集・運転方法の検証を行い、更なる精度の向上に努めていきます。
- *1 NADH風量制御を利用した嫌気無酸素好気法およびNADH風量制御を利用した循環式硝化脱窒法技術マニュアル-2015 年12 月-公益財団法人 日本下水道新技術機構
- *2 NADH計を活用した水処理技術に関する調査研究 京都市上下水道局(第56回下水道研究発表会,2019)