はじめに
下水処理場では、下水汚泥の減容化や汚泥中の有機物をガス化しエネルギー源として利用するために、消化槽を設置しているところがあります。
本稿では、北海道内A処理場の既設消化槽について、消化温度に着目して運転効率を評価・改善した結果の概要を報告します。
一般的な消化槽の消化温度
「下水道施設計画・設計指針と解説 後編」(「設計指針」、2019年版、日本下水道協会)p.480によれば、中温消化では35℃程度、消化日数20~30日程度とすると記されています。
一方、全国の下水処理場における消化槽の消化温度について、「下水道統計」(平成28年度版、日本下水道協会)から1℃単位で整理すると、図-1のとおり、36~37℃で運転している下水処理場が多いことがわかります。
消化温度と発生ガス量の関係
今回検討対象とするA処理場と同程度規模の消化槽を対象に、①消化温度 ②消化日数 ③上昇温度 ④投入VTS当たりガス量 の4指標について、「下水道統計」から整理した結果をグラフ化すると図-2のとおりとなります。
ここで図中B処理場は、A処理場と同地区に位置しているため、参考のために記しています。
A処理場とB処理場を比較すると、B処理場はA処理場よりも加温せず、消化温度34℃程度で、投入VTS当たりガス量はA処理場よりも多いことから、A処理場と比べて効率的に消化ガスが発生しているといえます。
言い換えれば、(微生物の種類にもよりますが)A処理場では加温を抑えて、投入VTS当たりガス量を維持または増加できる可能性があることが示唆されました。
①消化温度と②消化日数 |
①消化温度と③上昇温度 |
①消化温度と④投入VTS当たりガス量 (オレンジ色は「設計指針」の標準範囲) |
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実施設での検証
上記内容を参考に、A処理場では2018年12月から消化温度を下げて運転しました(図-3)。
消化温度を下げた当初は投入VTS当たりガス量が下がったものの、その後は消化槽内の微生物が順応し、投入VTS当たりガス量は復活しました。
このことから、加温エネルギーを減らしてもガスの発生効率はほとんど変わらないため、消化槽の効率的な運転(省エネ化)につながったといえます。