プロジェクトトピックス06

コンセッション導入可能性調査業務


1.はじめに

現在、下水道事業は全国的に厳しい事業環境に置かれており、「ヒト」、「モノ」、「カネ」に関する様々な課題に対して解決策を求められています。
A市においても、全国と同様に下水道の事業環境が厳しい局面を迎えています。まず、「ヒト」に関しては、下水道担当職員の数が減少しており、特に浄化センターを維持管理する現業職員数がこの先も減り続けることが不安視されています。次に、「モノ」に関しては、供用開始から50年以上経過していることから、老朽化施設の増大とその対応が課題となっています。最後に「カネ」に関しては、少子高齢化による人口減少や市の財政状況の逼迫から、将来における下水道事業の収支は厳しい経営環境となることが想定されています。A市では、これらの課題解決の方向性として考えられているコンセッション方式の導入可能性について、図1に示すフローで調査を行いました。
本稿では、この中から事業スキーム検討、メーカー意向調査、今後の課題整理について報告します。

図1 調査フロー
図1 調査フロー

2.検討対象施設及び概要

A市の下水道は4処理区で構成され、そのうち今回対象とした施設は1つの浄化センターと5ポンプ場でした。

3.事業スキーム検討

今回設定した事業スキームの対象範囲と特徴を表1に示します。対象範囲については、スキーム1は維持管理のみ、スキーム2は維持管理と改築更新の発注支援(事業化スケジュール提案や工事発注図書の作成等)、スキーム3は維持管理と改築更新工事としました。なお、改築更新対象は、長寿命化計画やストックマネジメント計画に位置付けられた資産のうち、事業期間内に確実に改築更新が必要となる設備とするため、事業開始から10年以内に更新が必要となる汚泥系設備(消化槽、脱水機)を対象とした。なお、管渠については、今回運営権設定の対象とはしませんでした。
各スキームの特徴は、スキーム1に比べて、スキーム2、3となるに従い事業者側の効率化に資する工夫やノウハウが発揮しやすくなり、想定される構成企業の業種は多くなります。

表1 事業スキームの対象範囲と特徴
表1 事業スキームの対象範囲と特徴

4.メーカー意向調査

メーカー意向調査は、アンケート及びヒアリングにより実施しました。調査対象企業は、今回の対象範囲が主に維持管理とプラント工事のため、「一般社団法人日本下水道施設業協会」加盟の正会員全32社としました。

(1) アンケート調査

アンケート調査は、今回事業への参加意向や業種、意見等を把握することを目的に実施しました。

①今回事業への参加意思
参加意思は、「参加する」22社に対して、「参加しない」10社(アンケート辞退含む)でした(図2)。

②参加する場合の業種
参加する場合の業種として、維持管理、建設(土木・建築)、建設(機械機器設置)、建設(電気)の全ての業種を選択した企業は2社のみとなりました。このことから、実際にコンセッション事業に参加する場合には、大半の企業がJVやSPCなどを構成することになると想定されます(図3)。

図2 事業への参加意思(32社)    図3 事業への参加業種(22社)

③事業に対する意見・要望
事業に対する主な意見・要望としては、事業参画には共同企業体として取り組む必要があること、リスク分担が重要であるためリスク判断のための十分な情報開示や調査期間を希望するという意見がありました。

④参加しない理由
参加しない理由は、維持管理の業務実績が無いこと、A市へ機器の納入実績が無いこと、官民連携事業の社内体制が整っていないといった回答がありました。

(2) ヒアリング調査

ヒアリング調査は、アンケートで参加意思があり、維持管理を行える企業11社を中心に、事業スキーム、契約期間、報酬体系、契約条件に関する確認を行いました。

①事業スキーム:(確認事項:希望するスキームについて)
調査対象がプラントメーカーであったことから、設備更新による自社製品を導入できる点、民間のノウハウを有効に発揮できる点からスキーム3の希望が多数です。また、大半の企業が改築更新事業部分に、企業側のメリットが見込まれているという回答でした。

②契約期間:(確認事項:コンセッション事業の契約期間について)
契約期間は、20年程度を希望するという回答が多数です。これは、PFI事業における実績は20年間としている事例が多く、この認識により固定概念化されている状況でした。

③報酬体系:(確認事項:利用料金や支払条件に関する要望について)
利用料金は、運営開始後数年で見直しが可能な条件を希望する回答が多数です。また、支払スパンは4半期程度で問題無いとの回答が多数です。

④契約条件:(確認事項:契約条件に関して重視する事項について)
契約条件は、最もリスク分担が重視され、不可抗力、物価変動、法令変更等に対する関心が大きくなっています。

(3) コンセッション導入のメリット検討

今回、スキーム3とした場合の維持管理費、改築更新を含めた運営に係る事業費について、参加意思があった11社に提出いただきました。その事業費と公共が自ら実施する場合の見込み額であるPSCによりコンセッション導入のメリット検討を行ったところ、数社でVFMがプラスとなり事業効果を確認することができました。ただし、A市は複数処理区を有することから事業者が受け取る利用料金の設定は概算値での検討となりました。

5.今後の課題と問題点

今回の検討より、コンセッション導入を実現させるための今後の課題と問題点を以下に示します。

  1. 事業スキームは、事業者の技術力や投資ノウハウを最大限に活かせるような改築・更新範囲の設定が必要である。
    特に水処理を含めることが有効である可能性が高い。
  2. 事業者に、より良い提案を行ってもらうため、現状を客観的に示す資料としてインフォメーションパッケージ(台帳、運転管理マニュアル等の整備)を情報整備により作成する必要がある。
    また、現地状況確認を行う機会を与えることも重要である。
  3. 利用料金の設定にあたり、A市では複数処理区で構成されているため、今後、市が行う事業と事業者が行う事業の範囲を検討する必要がある。
    そして、利用料金と使用料金を定めることが重要である。
  4. 契約期間は、期間終了後の引継等も含め、事業者の投資効果、現有設備等の改築更新スケジュール等を考慮して設定する必要がある。
  5. 事業者の参画意欲を増し、コンセッション導入を推進するには、事業者の運営に関する利益の課税制度緩和(イコールフッティング)が必要であると考える。

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