プロジェクトトピックス04

浄水場更新計画策定業務
-水道システムの最適化を見据えて-
浄水場更新計画策定業務

はじめに

水道システムを構成する施設のうち、浄水場は最も核となる構成要素であるとともに、一旦建設をしてしまえば、容易に造り替えることが困難である。そのため、浄水場の更新検討においては、浄水場単体のみを対象とするのでなく、水道システムとしての最適化を見据えたシステム全体の検討が必要となる。さらに、将来の水需要減少、地震や異常気象等への対応、省エネルギー対策などの課題を合わせて解決することが重要となる。

そこで本稿では、老朽化を迎えた施設能力10万m³/日規模の浄水場を対象に、取水から配水に至る課題を評価した上で、浄水場の更新計画を検討した事例を紹介する。

更新計画の検討事例

1.検討方法

(1)背景及び目的

Z市のA浄水場は、昭和30年代半ばの供用開始から既に60年近くが経過しており、老朽化の進行が顕著であるとともに、既往耐震診断の結果から、現行の耐震基準を満たしておらず、大規模な耐震補強が必要であることが明らかとなっていた。
本市では、このような背景のもと、浄水場の全面更新を選択肢に加えた対策方針の検討を行い、施設整備に係る基本方針を策定することとした。

(2)検討方法

本検討では、はじめに現地調査を実施し、浄水場を含めた水道システム全体の現状を把握するとともに、各施設の課題の抽出を行った(図-1)。
次に抽出された課題に対して、対策案を検討し、各施設における整備方針の策定を行い、水道システムの最適化を見据えた整備方針を決定した。
図-1 検討フロー
図-1 調査フロー
2.対象浄水場と関連施設群の概要

(1)対象浄水場の特徴

対象浄水場であるA浄水場は、施設能力10万m3/日のZ市における主要施設である。A 浄水場は、ダム放流水を水源とし、凝集沈澱+急速ろ過の処理方式を採用し、自然流下にて市内へ配水している(図-2)。 なお、A浄水場は、耐震診断の結果、現行基準に対する耐震性能が確保されておらず、早急な対策が求められていた。

図-2 A浄水場の浄水フロー

(2)対象浄水場に関連する施設群の特徴

A浄水場と関連施設群の概要図を図-3に示した。A浄水場では、Xダムの放流水を取水し、導水隧道及び導水管により自然流下で導水している。
B浄水場は、昭和50年代初頭に建設された施設能力3万m³/日の凝集沈澱+急速ろ過方式の浄水場である。水源は、A浄水場と同様のXダム放流水に加え、Yダム貯留水の二系統から取水している。

さらに、標高がA浄水場より10m程高く、水位的に上流側に位置している。B浄水場に至る導水施設は、他企業所有の発電所との共同施設であり、発電用水とともに分水井まで導水されている。

図-3 A浄水場と関連施設群の概要図

3.水道システムの課題

現地調査や現況評価を踏まえて、水道システムにおける課題を抽出した。
水源では、温暖化による渇水や水質への影響が懸念されたものの、継続的な監視や浄水施設での対応等で対処可能と判断した。一方、導水・浄水・送配水施設では、平常時及び非常時の各種リスクが懸念されており、浄水場を単純に更新するだけでは水道システムの持続的な安定性が確保できないと考えられた。

そのため、浄水場に関する対策とともに、水道システムとしてボトルネックとなる関連施設の対策も同時に実施する必要があると判断した。

表-1 水道システムにおける主な課題

4.更新計画案

(1)検討方針の設定

水道システムにおける課題の抽出結果を踏まえて、浄水場を含めた関連施設群の更新等に関する検討方針を図-4に示した。
本稿では、これらの中から水道システムの安定性向上に特に重要と考えられた導水施設、浄水施設及び送水施設に関して、施設整備に係る検討内容を報告する。

図-4 A浄水場と関連施設群の検討方針

(2)検討方法

浄水場の整備検討では、「整備案①:既存施設を改修して継続利用」、「整備案②:A浄水場の単独更新」、「整備案③:A・B浄水場の統廃合による更新」の3案について比較評価を行った(表-2)。
その結果、整備案③はイニシャルコストで整備案①より劣るものの、統廃合により運転や維持管理の費用・手間が低減でき、ランニングコスト(土木施設の法定耐用年数の60年間)も低減できることから、整備案③の統廃合更新案を選定することとした。

統廃合に係る整備方針としては、導水施設の整備量の削減と送配水に利用できる位置エネルギーを上流側に保持可能となるよう、統合浄水場をB浄水場付近に整備することとし、図-4に示したとおり浄水場の上流移転を図る方針とした。
さらに、A浄水場を廃止した跡地は、既存配水池の更新のための用地として活用し、配水場として再整備することとした。

(3)導水施設の事故等リスクへの対応

導水施設は、老朽化や地震対策等が必要であるが、施設停止が困難で、詳細な調査診断ができず、各種リスクが不明であった。事故時には復旧が長期化すると想定され、安定給水に多大な影響およぼすおそれがあるため、改修や二系統化などの対策が必要と判断した。
導水施設の整備案としては、「整備案a:既存活用案」と「整備案b:増設案」の2案を比較評価した(表-3)。

整備案aは、A系統停止時にB系統から導水するための導水ポンプを整備し、A系統・B系統ともに改修を実施し、二系統化を図る案である。
整備案bは、導水施設を増設して、二系統化を図る案である(図-5)。 整備案bは二系統化により事故等リスクの大幅な低減が見込まれるものの、整備費用が高額となる。

一方、整備案aは、導水ポンプの整備が必要になるとともに、B系統を利用する際に発電用水の通水停止を伴うことから、発電所との調整等の運用上の制約があるものの、既存導水施設が活用でき、コスト抑制が可能となるため、経済的に二系統化を実現できる方法として採用した。

表-2 浄水施設の整備方針案
本市全体の水運用として、A・B浄水場の配水区域には他浄水場等からの相互配水運用によるバックアップを整備するため、ここでは施設単体の地震リスクに関して評価している

表-3 導水整備案の比較結果
 

図-5 導水施設の整備案

(4)送水方式の転換

統合浄水場の上流移転に伴い、統合浄水場から既存配水池までの送水方式について、自然流下方式とポンプ加圧方式を比較評価した(表-4)。
取水及び配水施設の水位レベルは変更しないため、自然流下方式では、既存水位の範囲内に管路損失水頭を抑制する必要があり、送水管口径が送水量に比してやや過大となる。一方、ポンプ加圧方式は、送水ポンプの整備やポンプ動力費が発生するものの、トータルコストでは経済的な選択が可能となる。

また、総CO2排出量を算出(1)した結果、両方式の排出量の差は4割程度に収まっており、環境負荷が著しく増大することはないと判断した。 今後は、水需要の低下によって、管路損失水頭を縮減できる見込みのため、加圧を抑えた送水が可能となり、将来的に自然流下方式への転換も期待できる。

おわりに

本稿では、取水から配水までの水道システム全体を対象としたA浄水場整備に係る計画策定事例を報告した。

【参考文献】 (1) 公益財団法人水道技術研究センター、持続可能な水道サービスのための管路技術に関する研究(e-Pipeプロジェクト)、第5章管路施設のLCAに関する研究、pp.5-1-5-108,2011
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