トピックス  No.6 07/04/13

現場からの声(3):岐阜県高山市

 2007年03月05日 月曜日

 民間活用の良いところはどこか,またどのような点が問題か,などについて現場の生の声をお伺いし,官民パートナーシップを成功させる鍵は何かを探る「現場からの声」コーナーです。第三弾は,水道事業における指定管理者制度の導入例として高山市を訪問させていただき,お話を伺ってまいりました。

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■指定管理者制度とは

 指定管理者制度とは,平成15年の地方自治法改正により創出された制度で,同法第244条の「公の施設」の管理を自治体以外の者に行わせる場合,①民間も行うことができ,②単なる管理の委託ではなく,利用許可や必要に応じて料金設定の権限を含めて委任される点が特徴です。また同法の附則により,全ての「公の施設」について直営か指定管理者かの選択を行う必要があり,その期限が平成18年9月とされていました。
 水道も「公の施設」の一つですが,地方自治法は一般法,水道法は特別法の関係にあるため,水道の管理に関する事項は水道法が優先されます。水道法では,これに先立つ平成13年の改正で「第三者委託」が制度化されており,水道の管理に関する技術上の業務を水道法上の責任を含めて民間に委託できるため,指定管理者制度による必要は必ずしもありません。
 「水道事業における民間的経営手法の導入に関する調査研究報告書」(平成18年3月,日本水道協会)では,水道事業における指定管理者制度の導入による効果として,①コスト削減,②技術者の確保,③水道使用者への情報提供(管理の基準や業務の範囲を条例で定める必要があるため)といった三点を指摘しています。


■インタビュー

 2007年03月05日 月曜日 9:00~10:30
 出席者:岐阜県高山市 松崎水道部長 佐藤課長
      NJS高山出張所 田辺所長 経営工学研究所 山口
 場所:岐阜県高山市上水道課 打ち合わせブース

●指定管理者制度導入の背景について

----高山市では全国に先駆けて水道事業に指定管理者制度を導入されました。まず,指定管理者制度を導入することになった経緯についてお教えいただけますでしょうか。

【松崎部長】市全体で公の施設を指定管理者制度に移行させる方針が示されたのが取り組みのきっかけです。これを受けて内部で水道法での第三者委託も含め検討した結果,指定管理者制度の導入を決定しました。最終的に4つのグループから応募があり,この中の1つのグループに絞りました。要求していた水準に一番近かったところが受託してくれたと考えています。
 4つのグループのうち1グループは採算をとりやすい簡易水道の4事業に限定した提案で,残り3グループは上水道も簡易水道も含めて上水道事業を一括して受託するという提案でした。このため,市の考えていた形に近い後者の3グループから選定する形になりました。

--複数の水道事業や簡易水道事業を運営されていますが,提案募集時にはどの事業についての提案を求めるか,など,範囲の指定はあったのでしょうか?

【松崎部長】最終的には,旧高山市の水道事業全体で一本,8簡易水道事業を総括して一本,の2つの契約にまとめました。ただ,募集時には旧市町村を単位とするブロックに分けての募集となっています。それぞれの支所ごとに受託者や体制が違うのは好ましくはないのですが,全体を担当してくれる応募者が出てこなければ,そのような形もやむなしの覚悟でした。

--最初に指定管理者制度を導入する方針が決まったのはどの時期でしょうか。

【松崎部長】ちょっとうろ覚えですが,指定管理者制度そのものが議論されるようになったのが平成15年頃だったと思います。その動きとは別に高山市では従来から浄水場の維持管理の委託について検討を重ね,平成16年ごろに指定管理者制度について検討を始めて,平成17年中に進めることになりました。

(編集注:指定管理者制度が地方自治法の一部改正により施行されたのは平成15年9月,改正法の公布はこれにさかのぼった6月。)

 最終的には,市議会の指定管理者制度に関する特別委員会で検討し、市議会で決定しています。ただし,それ以前にも第三者委託の検討など様々に準備を進めていました。地方自治法の改正以降,行革の進展もあわせてスケジュールが加速した形になりますね。

●制度導入時の苦労について

--プロジェクトの推進体制はどのような形だったのでしょうか。水道部主体ですか?

【松崎部長】指定管理者制度導入プロジェクトそのものは市全体のプロジェクトで,高山市としてのプロジェクト委員会が設置され,全体を統括しています。個別具体論についてはそれぞれのセクションが対応することになっており,水道関連の案件は上水道課全員で対応しました。

--高山市さんが実施された時期は,指定管理者制度を適用した事例そのものがほとんどなかったと思います。制度設計はどのようにして行われたのでしょうか。

【松崎部長】協定書,仕様書等の用語などは,総務省からリリースされた指定管理者制度に関する資料などを参考にして作成しています。

--内部消化ですか。すごいですね。

●受託者の選定と契約について

--指定管理者制度を利用する場合,水道部との直接の契約の場合と比べて,議会の議決など複雑な手順が必要になりますが,これにより以前に比べて運営が滞ったりということはなかったでしょうか。

【佐藤課長】別組織に委託するためにコミュニケーションをしっかりとっています。受託者が,これまでも高山市の水道施設の維持管理を一部担当してくれていた管設備工業協同組合が主体になっていることも大きいと思います。全く初見のところであればぎくしゃくしたりしたかもしれませんが,当市の場合はもともとコミュニケーションがとれており,連携は十分機能していました。

【松崎部長】実は,最初応募者を募集するときには,全国展開している業者の参入を想定していました。しかし,当市での雇用創出を重視し,地元本社企業を参加企業のメインとすることを条件にしたところ,全国展開している会社が地元企業とのJVで参入してきた,という経緯があります。

--なるほど,そういう流れで地元の業者との交流を引き継いだわけですね。

【松崎部長】市町村によっては全国展開している会社が単独でやっている例もあるようですが,当市ではそのような形です。

--実は,受託者たる管工事組合さんともお話をしたことがあるのですが,水道技術についてずいぶん勉強されているなとの印象をもちました。管工事組合でそこまで深い知識を持ってるのはすごいなと思った覚えがあります。

【松崎部長】技術面での提案をしてもらわないとメリットがない。どんどん提案してもらわないといけないと思っています。

--現在の指定管理者の指定期間は何年でしょうか。また,期間の終了時はどのように考えていらっしゃいますか?

【松崎部長】期間は3年です。3年後,前回と同じように提案をいただき,指定管理者の指定を行います。

●実務上の課題や効果について

--民間活力の導入の目的の一つにコスト縮減があると思いますが,コスト縮減幅についてはどのように試算されていますか?

【佐藤課長】運用開始からまだ1年なので,収支の決算がまだできていない。これが上がってきたところで確定する予定です。ただ,既存施設に常駐していた職員の数は,簡易水道分を含めてトータルで6名の減員になっていますので,効果があったことは間違いないでしょう。

--新しい制度を使って民間に水道事業を委託することに戸惑いなどはありませんでしたか?

【松崎部長】審議の時,特別委員会での意見には,水道を委託することによって,水質,水源,供給の安定性などに不安が生ずるのではないかとの問題提起がありました。そこで,この意見への対応の意味もかねて,水道部内に新たに「浄水グループ」を作り,受託者の浄水場運転業務などの実務のチェックを行っています。この作業には浄水場の運転を担当していた職員を配置し,朝のミーティングなどで業者とのコミュニケーションをとったり水質検査の採水時に立ち会ったりしています。

--着手時の技術研修はどのような体制で実施されましたか?

【佐藤課長】2ヶ月間でひととおりの引継ぎ研修は完了しましたが,その後も引き続き,ミーティングなどで指導を行っています。前述の浄水グループがこれを担当しています。

--保険の付保は条件になっていますか?

【松崎部長】募集要項にありますが,高山市自体で入っている保険と,業者が独自に付保しているものとがあります。構造物関係の保険は市で一括で付保しています。リスク対応用の部分,給水停止になるようなリスクの,例えば薬物毒物の混入による被害を移転する保険は受託者側が加入しているようです。人口や給水量、管路延長等で保険額が決まるそうですよ。

--最後に,指定管理者制度を導入して,高山市の水道事業はどのようにかわりましたでしょうか。一言で言うとどのようなお考えですか?

【松崎部長】それぞれの事業体の考え方次第ではあるのですが,アウトソーシングの流れは基本的にはもう後戻りできないと思います。しかし指定管理者制度が唯一の方法では無いと思います。当市のように,市町村合併によって一気に施設数が増えてしまった,しかし旧町村ごとに施設のレベルがばらばらな場合には,非常に有効な手段のひとつと考えます。
 また,今後は水道技術の継承が困難になりつつあることを忘れてはなりません。技術屋がいなくなるのです。高山市全体で言うと,合併前の職員数が約600人,これが合併により1,250人に膨み,市では,4年間で約400人削減して,850人体制にするとの方針を出しています。この4年での職員の減少スピードは大変なもので,そうなると,技術者の補充が余計困難になることは自明です。こういう中で技術を継承していくことは非常に難しい。であれば,組織を継続できる民間の力も借りながら,なんとか技術の継承をしていかなければならないのではないかと。実は,そこが一番の目的なのです。
 たとえば,名古屋市さんはこの問題に備えるために研修所まで作った。基盤が強固で自前でそこまで出来るところはそういうことができるし,近隣であればそこに行って研修させることもできる。でも,高山市から行けというのも難しい。そういう面でも,地理的に不利な条件であるところでは,技術の継承のために民間に委託するという手法も有力な手段と思います。何せ当市は,面積で日本一,48箇所も簡易水道施設があるのですからね。
 今般厚生労働省から出された簡易水道の経営統合に伴う地方公営企業法の適用化の方針についても,とても即応できるような作業量ではありません。そういうところも含めて,民間の力をより積極的に借りざるを得ないでしょうね。

--本日は貴重なお話をいろいろ頂き,ありがとうございました。


※本記事は当日お話を伺った内容をもとに経営工学研究所で再構成したものです。

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