トピックス  No.3 06/07/31 最終更新:08/11/19

現場からの声(1):静岡県大井川町水道事務所

 2006年07月06日 木曜日 10:30~14:00

 民間活用の良いところはどこか,またどのような点が問題か,などについて現場の生の声をお伺いし,官民パートナーシップを成功させる鍵は何かを探る「現場からの声」コーナーです。第一弾は静岡県大井川町(現焼津市)における水道料金収納業務と財務会計事務業務の事例です。

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■山本所長インタビュー

 2006年07月06日 木曜日 10:30~11:30
 出席者:大井川町水道事務所長 山本虎男氏
      NJS 玉真,山口,NJSE&M 鈴木
 場所:大井川町水道事務所2F会議室

●契約内容について

 静岡県大井川町は、大井川の下流、駿河湾に面した人口約24,000人の町である。(ただし、平成20年11月1日付けで焼津市と編入合併し、焼津市となった。) 大井川町が㈱NJS E&Mに水道料金収納業務と財務会計事務業務を民間委託したのは平成17年4月のこと。契約期間は平成22年3月までの5年間で,料金と財務会計各システムのリース契約とシステムの保守業務も含んでいる。

大井川町水道事務所

--今回の契約は5年契約となっています。債務負担行為が設定できず,契約は単年度でも口約束で複数年契約としている例もある中で,あえて期間を5年としたのはどのような経緯からでしょうか。

【山本】役所全体が,数年前から,複数年契約が適切な場合については債務負担行為でやるべき,という流れになっていたので,特に意識はしなかったです。例えば,コピー機をリースで借りるのに1年ずつ契約はしないですよね。口約束というのも良くないし,業者さんに不安感を与えるということもあり、大井川町では債務負担行為で執行すべきという指導がありますので、何の抵抗もなくお願いをしています。

--こういう事務委託業務を受託する民間としては,投資を回収する観点から,なるべく長期の契約にしてもらいたいところなのですが,そういう自治体さんはなかなか少ないように思います。

【山本】NJS E&Mに委託するにあたり,サーバー,パソコン等のハードウェアとソフトウェアを含めて受託者を募集(技術提案型入札)しました。5年という期間はパソコンやソフトウェアの償却期間としてNJS E&Mの提案に基づいたものです。水道事務所としましても5年間が適当と思っておりました。

 複数社の中で,NJS E&Mだけが料金事務だけでなく企業会計処理までを行う提案をした点が評価されました。それで随意契約となったわけです。これまで町の担当者が変わると,企業会計の考え方から会計処理の方法,財務会計システムの操作を一から勉強しなければならず,非常に大きな負担になっていたのです。それで会計処理までやってもらいたい,ということになりました。


●運営体制について

 現在の大井川町水道事務所は,水道係のみの1係制。所長以下,所長補佐兼務の水道係長1名,工務・管理を担当する係員2名の合計4名体制となっている。NJS E&Mからは,会計処理担当1名,料金徴収担当1名の女性職員が事務所に常駐し,役場の職員と一体となって仕事を行っている。町の水道は地下水水源が約9割を占めており,施設の維持にあまり人手がかからないため,職員の人数は他市町と比べても少ない方ではないかという。

--委託前と委託後の水道事務所の組織を比べるとどう変わったのですか?

【山本】委託開始前は業務係と工務係の2係制で計6名体制でした。(所長のほか業務係が2名,工務係が係長と係員2名の3名) 委託後は1係の計4名体制になったので,町の職員は2名減ということになります。

 会計処理と料金徴収の実務は,NJS E&Mに委託する前も職員2名でやっていました。今回の業務委託にあたって,NJS E&M側の提案は担当を3人にしてはどうかというものでした。ただ,事務内容からも2人で十分であると判断し、委託料の低減も含め、無理にでも2名にしてもらいました。

--NJS E&Mの業務履行に対する監視・監督はどのようにされていますか。

【山本】NJS E&Mの2名の職員に対する指示・監督は,所長と所長補佐が行っています。日常の業務で的確に仕事をしてもらっているという印象をもっていますので,特別の指導はほとんど必要にはなっていません。

--浄水場とその管理は?

【山本】ここを含めて3箇所の浄水場がありますが,町全体の水源のうち7割をここで,また残りのわずかな分を他の2箇所で処理しています。日常的な点検や見回りは,シルバー人材センターに委託して,機械取り扱いの経験者に1日おきにやってもらっています。殺菌液の追加や、機械の不具合を発見した時などは、職員や、業者が修繕を行なっています。原水がきれいで処理に手間がかからないとはいっても,毎日必ず見回りをし、目視(色、濁り、残留塩素)の水質検査が必要ですので,委託の監視日以外は職員が行っています。


●業務内容について

--未納の状況と,未納者からの料金収受の方法について教えてください。

【山本】未納期回数が多くなってしまうと払う人も大変になるので,現在では1回でも支払いが滞ったら停止するよ,という通知を出して,それから約1週間後で停止するようにしています。

--未納の件数はどの程度ですか?

事務所の責任者,山本所長

【山本】今は先の最高裁の判決である水道料金債権の時効も決定され、2年以前の料金処理をNJS E&Mからご指導をいただくように考えています。(編注:平成15年10月10日の最高裁第二小法廷の決定。水道料金債権は私法上の金銭債権であるとして民法173条に基づき2年とされた)。平成13年度64名,14年度72名,15年度88名,16年度145名,17年度375名です。ただし,13,14年度は回収見込みはありません。回収できない理由はさまざまであり、特に目に付くのは,住民票を移さず転入してきて,いつしか転居してしまうケースとか,倒産(破産)する場合が増加してきているように思えます。
 NJS E&Mに委託してからは,未納のまま放置される物件はなくなりました。給水の停止は極力やらないようにしていますが、悪質、相談しても約束違反などの方は停止します。また、閉栓の催告を持って現地に行くと払ってくれたりもします。

--未納分について利子をつけるようなことは行われていますか?

【山本】督促料で100円だけ加えていますが,催告等にかかるコストから見ればもっと増額したいと考えます。

 収納率を向上する手段ですが,例えば,日中しか納付窓口が開いていないから払いにくいという人もいる。ですが,口座振替の手続きもなかなかしない人が多いですね。現在口座振替が86%で,残りの14%が指定金融機関への納付です。

 水道料金の口座振替は、金融機関との間でFDを直接受け渡しして処理していますが,効率化・安全化のため,近いうちに電送での処理に切り替える計画も検討されております。

--料金と財務会計システムの保守の対応はどうしているのですか?

【鈴木(NJS E&M)】システム上の対応は電話が中心ですが,データに問題があれば,NJS E&Mの本社でシステム上の原因を調べてから対応するような形をとっています。


●業務委託のメリットについて

--NJS E&Mに委託したメリットについてうかがいます。委託の主たる目的は人員削減と経費削減ということでしょうか。

インタビュー風景

【山本】人件費の削減も目的ですが,企業会計としての運営継続,会計処理の円滑化は大きなメリットと認識しています。料金未納者の督促についてもノウハウを提供してもらっています。給水停止などの執行には私が同行します。町の職員ですとどうしても異動に伴い他の部署での町民にお願いする立場にあることもあって,職員は消極的になりやすく結果的には未納額を増加させてしまう。そこで、委託先の民間が担当することで公平・迅速に未納者の処理がスムーズになりました。
 また,委託前はシルバー人材センターに直接検針を委託していたのですが,検針者が事故などで急に業務ができなくなるような場合は、事務所の職員が随行し大きなロスが発生しました。今後は、NJS E&Mならば代わりの人を手配してもらえるし,それまでの間は代替の体制を組んで、当事務所には支障が生じないようにという安心感が大きいですね。
【鈴木(NJS E&M)】現在検針員は4名ですが,検針区域図を作って,欠員や欠勤時の対応もすぐできるようにしているところです。


●業務委託の課題など

--検針業務は町民との接点が多いと思いますが,水道料金の収受を民間に任せることについて,町民から否定的な意見はないですか?

【山本】水道料金の収受は、検針員は行ないません。料金に関しては、委託先の2人の方に(委託契約)お願いしています。また、毎月、町監査委員の例月出納検査として会計課立会いで監査を受けており、問題はありません。

--NJS E&Mへの注文があれば率直なところをお聞かせ下さい。最初のうちシステム絡みのトラブルがあったと聞いています。例えば,もうちょっと東京の本社でしっかり監督してほしいとか,そのような要望があれば。

【鈴木(NJS E&M)】スタートして間もないころ,データの整備に問題があり,その際は大変ご迷惑をおかけしました。

【山本】現在,検針員を含めた担当職員はNJS E&Mで採用してもらっているので,要望があれば鈴木さんにお願いしますが,もう1年経ってだいぶ慣れてきていますし,現在特に要望はありません。残業も以前よりは少なくなっています。そういえば,事務所に常駐2名の職員には,契約外の仕事になってしまうのですが,役所全体で認証を取得しているISO14001の職員訓練を受けてもらっています。

【鈴木(NJS E&M)】そういう場合は,我々としても,役所の組織体制に準じてやる前提で考えています。

--全体的な印象として,NJS E&Mにとっては大変良い条件と環境で作業をさせていただいておりますし,裁量も含めて信頼をいただけているようで,大変ありがたいと感じています。

【山本】料金収納は,こつこつと毎日のことですがしっかりデータを出してもらっているので,スムーズに進んでいます。会計処理についても,武田さん(編注:NJS E&Mの財務会計処理責任者)から事前に事細かな説明を受けて,必要な資料も送ってもらっているので安心しています。

【鈴木(NJS E&M)】福島県三春町や群馬県の太田市でも会計処理事務を受託しているので,その経験も生かしています。

 口座振替手続きを電送で行う方向で,金融機関と調整中である。現状では,水道料金の口座振替について,金融機関との間でFDを直接受け渡しして処理しているが,これを電送で処理することにより効率化・安全化しようとするものである。この電送化についてはNJS E&Mで提案,採用の実績があり,大井川町にもこの方法の利点について説明をしていたが,金融機関からの了解が得られなかったためまだ導入していなかったとのこと。


●水道事業の現状と課題について

大井川町上水道事業の創設年度は昭和43年3月。過去2回の拡張工事を行い,現在は第四次拡張事業を実施中である。

--大井川町水道事業の経営状態をNJS経営工学研究所の「水道事業健康診断票」でチェックしてみました。需給条件は良好ですし,投資上の問題も顕著なものはありません。資産面でも投下資本に対する効率は全般に高くなっています。給水原価も起債依存度も低い。いろいろな意味で,データ面では,状況はかなり良い方と見ています。そのうえで,町でかかえていらっしゃる課題があればお教えください。

【山本】ここの事務所は旧事務所が老朽化したため平成16,17年度に新築したのですが,その投資を含めて施設の更新時期に入ってきています。今年度以降の経営は特に厳しくなることが想定されるので、より一層のコストダウン等を考えなければと思います。現在,一般会計からは年間約3000万円の出資と補助を受け,4条(資本的)収支と3条(収益的)収支の両方に繰り入れています。これは,主に石綿セメント管の更新費用として一般会計から補填を受けているものです。(編注:石綿セメント管更新費用に関する地方交付税措置相当)

--簡易水道など,上水道事業以外の水道の状況はどうでしょうか。

【山本】大井川町内には簡易水道はありませんが,2箇所の専用水道があります。 地下水が豊富なので,昔は世帯ごと,あるいは10軒位が共同で井戸を持っていました。第二次拡張事業で町全域を給水区域にし、これらを統合したのですが,現在でもその名残があり,兼用で使用している家庭が半分位あるかなと思います。

--町に下水道は整備されているのですか。

【山本】公共下水道はなく,合併浄化槽に補助金を出しています。いわゆる個人設置型で,市町村設置型の事業は行っていません。公共下水道をやっていたら財政的に苦しくなっていたでしょうね。大井川町は富山県などで多く見られる散居村の形態なので,下水道では効率が悪いのです。もっとも団地用の大型の浄化槽(コミプラ)を導入している例はあります。

--最後に,委託全般に関する感想をお聞かせいただければ。

【山本】本町くらいの小規模の自治体では水道の運営も厳しくなってきているのではと思います。職員も高齢化であり専門的な部分は委託すればいいのに,と思いますね。近隣の市町からは、いろんな会合時に委託について問い合わせがあったりしました。

--本日はお忙しいところ本当にありがとうございました。我々としても大変励みになるお話しで,嬉しく思っております。


■担当者インタビュー

 2006年07月06日 木曜日 13:00~14:00
 出席者:大井川町現地事務所 大谷さん,池谷さん
      経営工学研究所 玉真,山口,NJSE&M 鈴木
 場所:大井川町水道事務所2F会議室

●業務の内容と消化体制について

--今日は業務中のところお邪魔してすみません。まず,お二方の業務内容を教えてください。

【池谷】私の担当は主に会計処理です。もともと会計関係の専門家だったわけではないのですが,銀行の窓口担当をやっていた経験があります。1年間,業務を一通り決算書まで作成する経験を積んで,大体どのような作業をしないといけないのか全容が分かるようになったかなと感じています。わからなければ電話でNJS E&M本社の方に教えてもらっています。

【大谷】私は主に料金徴収を担当しています。私も大井川町在住なのですが,両親がいて子供の面倒を見てもらえるようになってきたので,ある程度長くできる仕事ということもあって応募し,採用になりました。実際の仕事は,池谷さんと適宜助け合いながらやっています。

--研修とかはどうしていますか?
現地事務所のお二人

【鈴木】集まっての研修はしていませんが,スタート時にはこちらに来て指導しましたし,その後も,分からないことなどがあれば,その都度,武田さんと私が指導しています。また,検針のミーティングを月1回やっていたのですが,業務も安定してきたので,現在では隔月ぐらいにペースダウンしています。

--スタート当初に色々と大変だったと聞いています。このあたりを教えてください。

【池谷】大谷さんが担当している料金システムでトラブルがありました。システム上のデータの処理が不適切だったことなどで,データミスが出てしまいました。大きなトラブルはもう落ち着いていますが,当時は大変でした。

【大谷】納付書の件で、委託前は封筒で送付されていたものが、委託後は圧着式のハガキに変更になったことで、住民の方を混乱させてしまった部分がありました。

【池谷】引継ぎの時間もあまりなかったですしね。

【大谷】以前担当していた町の職員の方が退職されたということも手伝っています。クレームの処理でお客さんのところに行くことも多く,業務自体も半信半疑でこなしていた時期もありました。

--督促の手続きとは,どのようなことが?

【大谷】定期的に給水停止予告を行うようになりました。料金を支払わないことを悪びれていなかった方も一部いらっしゃいましたが、何度も訪問していると住民の方の中に申し訳ないという気持ちが芽生えて、支払をしてくれるようになりました。

【池谷】今は月間スケジュールを設けて定期的に督促などの作業をやっています。毎月です。

--先ほど所長とお話しましたが,皆さんの評判もよかったです。よくやってくださっているようですね。

【池谷】むしろ,水道事務所の方たちがすごくいい方たちで,いろいろ助けていただいています。水道事務所は公営企業として事業を行っている関係上,民間に近い感覚も持ってくださっていると感じますね。

--ここの事務所に直接問い合わせに来る人はいらっしゃいますか?

【大谷】いらっしゃいます。すごく沢山お見えになるときと,ぜんぜん来ないときと。督促状が届いてすぐの時か,納付期限ぎりぎりかのどちらかでお見えになりますね。

--検針員の方は4人ということですが,お互いの交流とか情報漏洩の予防策とかはどうしていますか?

【鈴木】月末のミーティングに出席していただき、ハンディターミナルを渡しています。情報漏洩については,その際の話合いなどにより,教育を通じて注意喚起するようにしています。

【大谷】ハンディターミナルも,原則として,朝事務所に取りに来てもらい,帰りに事務所に届けてもらうことになっています。ただし,強制はしていません。他の地域で起こった情報漏洩の例について勉強したりして,注意を促しています。

--滞納をしやすい人のパターンみたいなのはありますか?

【池谷】アパートが増えているので,若い人からコンビニなら払えるのに,と言われることがあります。役場にも会計課があって支払いができますし,指定銀行の本支店でも支払いができますが,休日は対応していません。滞納をしてしまうのは短期滞在の人が多いように思います。特に滞在型マンションのような場合で個人払いの契約をしている人の場合に,何もいわずに出て行ってしまう人もいるようです。

--今日うかがったような知識や経験を社内で共有し,お互いの次の糧にするため,記録をとってもらい,交流する場を持てれば良いですね。本日はどうもありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。


(注)本記事に記載した組織や所属は,大井川町の焼津市への編入合併前,2006年7月現在の内容です。

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