トピックス  No.39 11/11/01  最終更新:11/11/21

水ビジネスの世界地図 ~アフリカへの誘(いざな)いの巻~

 「水と水技術」No.11(2011年7月、オーム社刊)への掲載記事を一部改変

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日本上下水道設計(株)


■アフリカとはどんな地域か

 アフリカ53ヶ国の現在人口は約10.3億人。2005年から2010年にかけての増加率は年平均2.3%とまさしく急増中です。世界平均の人口増加率が年1.2%、わが国は-0.1%ですので、その大きさがわかるというものです。そして、2050年には20.0億人と現在の2倍に増える見通しです。これに加えて若年層が多いため、世界で最も活気に溢れた市場のポテンシャルを有するといってよいでしょう。

 アフリカというと、植民地支配の負の遺産、独裁者、内戦、疾病、貧困、乏しいインフラ施設、治安の悪さなどマイナスのイメージが強く、物理的な距離もあいまってわが国からはかなり遠い感覚があります。また、なにしろ巨大な大陸ですので、東西南北はもとより内陸と沿岸部でも、気候や風土、それに民族や言語、文化が大きく異なります。

 実際に上下水道の普及率をみると、サハラ砂漠以北と以南では大きく状況が異なっています。たとえば水道管による給水人口普及率は、サハラ以北が平均80%弱であるのに対し、サハラ以南では16%にとどまっています。衛生設備の整備状況も、サハラ以南では人口の約半分が排泄物と人体が接触する恐れのあるトイレ(穴を掘っただけのものなど)を使っていたり、自然のままに野糞という状況です。国連が2000年に策定したMDGs(ミレニアム開発目標)では、安全な飲料水と基礎的な衛生施設を利用できない人口の割合を2015年までに半減させることを掲げていますが、現在のところアフリカ諸国における目標達成は、国によって差はあるものの、概して厳しい状況にあると言わざるをえません。


■アフリカ各国における上下水道整備の二つのパターン

 上下水道の整備が進む背景には、その国の経済力に加えて、水資源賦存量の大小も影響します。経済が比較的豊かで水資源賦存量が少ない国では、水資源開発を含めた上下水道の整備が進みやすい条件下にありますが、経済力の弱い国では、たとえ水資源賦存量が少ない場合でも、なかなか思うように整備が進まないということです。この後者の場合は、国際金融機関や先進国のODAに依存することになります。

 図-1は、水資源の賦存量とGDP(国内総生産)、水道普及率について、アフリカ各国の数値をプロットしてみたものです。このうち水資源賦存量は、国土面積あたりのTRWR(Total Renewable Water Resources:表流水・地下水のうち1国内で利用可能な量)、GDPは国民1人あたりの値としてあります。

 図中にパターン①として囲った諸国は「貧困&水道普及後進国」で、1人あたりGDPは1000ドル(8万円)以下、水道普及率もアフリカ諸国の平均32%を下回っている国々で、水資源賦存量は概して少ないところが多くなっています。また、パターン②として囲った諸国は「裕福&水道普及先進国」で、水資源賦存量が少ない一方、1人あたりGDPは比較的高く、水道普及率も高い国々です。

図-1 アフリカ諸国におけるGDP、水資源賦存量と水道普及率の関係

注1)TRWRと国土面積は "Review of World Water Resources by County"(2003、FAO)の所載データによる。
注2)GDP、水道普及率及び人口は "Global Water Market 2008"(Media Analytics社)の所載データによる。

 以下では、パターン①の国の代表としてチャド、モザンビークの2国、パターン②の国の代表としてアルジェリア、ナミビアの2国、それ以外の国としてセネガル、ガボンの2国の水ビジネス市場を概観してみましょう。


■チャド

 チャドはフランスの旧植民地で、いわゆるアフリカの年、1960年に独立を果たしていますが、現在でも公用語はフランス語とアラビア語です。

 水資源の賦存量はもちろん、経済力、水道普及率ともに低い状況にあり(水道5%、下水道1%)、これには独立以来断続的に続いた内戦やクーデターも影響しています。最近では東隣のスーダン国・ダルフール地方における紛争の影響を受けて、政治情勢は再び不安定さを増しています。

 アフリカの貧困国に対する世界銀行グループの融資戦略として、世界銀行とIMF(国際通貨基金)によるHIPC(Heavily Indebted Poor Countries:重債務貧困国)イニシャティブ、またIMFによるPRGF(Poverty Reduction and Growth Facility:貧困削減・成長ファシリティ)があります。これらはいずれも、資金供与を受ける条件として行財政改革の実施を義務づけるもので、それぞれ1996年、1999年から導入されました。

 この行財政改革のメニューには公社等の民営化が含まれていて、チャドでも国有の水道・電力供給公社(STEE)が2001年、ヴェオリア社との間で事業運営契約を締結して業務が民営化されています。しかし、ヴェオリア社は採算性を理由に2004年に撤退し、STEEは再度国営化されて現在に至っています(ただし、株式の一部(20%弱)はAFD(フランス開発庁)が保有)。

 一方、JICA(国際協力機構)は、2005年に現地フィールド・オフィスを開設し、2006年には首都ンジャメナにODAアドバイザーを派遣するなど、本格的な経済協力を開始しましたが、治安の悪化により同年12月にオフィスを閉鎖、現地での協力活動は中断を余儀なくされています。

 「貧困&水道普及後進国」で、上下水道の整備にはODAが必須ですが、ODAの供与すらも難しい政治情勢、また公社を無理やり民営化しても採算がとれずに運営会社が撤退、といった非常に厳しい状況下にあります。


■モザンビーク

 モザンビークはポルトガルの旧植民地で、独立は1975年と他国よりもやや遅れました。水資源賦存量は平均以上ですが、経済力と水道普及率は低く、上下水道普及率は、水道8%、下水道1%にすぎません。

 1998年から世界銀行・IMFの重債務貧困国イニシャティブに基づき水道の民営化が求められ、1999年にフランス・ソー社とポルトガル水道、またモザンビーク国内の公的機関や民間企業の出資によるADM(Aguas de Mocambique)社が設立されました。同社は、首都マプトほか1都市を対象とする15年間のアフェルマージュ契約、5都市を対象とする5年間のアフェルマージュ契約を受注しましたが、出資会社のうちソー社は2001年12月に撤退しています。

 なお、アフェルマージュとは、わが国の有料高速道路で導入された「上下分離」(資産と債務は日本高速道路保有・債務返済機構が持ち、運営、料金の収受と道路資産リース料の支払いを民営化された各道路会社が行う)方式に近い方法です。

 このソー社の撤退については、もともとADM社の入札額が他社の札と比べて極端に安かったことに加え、2000年に起こった浸水被害の影響により財務状態が悪化していたという背景があり、これを補うための料金値上げも当局から却下されていることから、チャドにおけるヴェオリア社と同様、採算性が理由と考えられます。同社の持株はポルトガル水道が引き取った結果、ポルトガル水道の持株比率は73%となりました。その後の水道事業の運営は、無収水率に改善の余地が残ることを除けば、良好といってよい水準にあるようです。

 こうした民営化の成功体験をふまえ、2004年には、3年間の契約により、南部の4都市を対象とした水道事業の運営サポート業務をオランダのヴィテンス・エヴィデス・インターナショナルが受注しています。同社は、2006年、さらに中部の5都市を対象とした同様の業務を受注しています。


■アルジェリア

 アルジェリアは、水資源の賦存量が少なく、地中海沿岸部を除けば厳しい砂漠気候にさらされます。石油・天然ガスの産出国として国民の所得水準は比較的高いため、上下水道の普及率も水道94%、下水道85%と、これまで見てきた国々とは桁が一つ違う位の高い水準にあります。

 水資源開発として、ダムの建設や地下水の汲み上げ、また導水管の建設が行われてきましたが、1996年に電気透析法による産業用施設が建設されたのを皮切りとして、淡水化施設が2003年頃から急増しています(図-2)。

図-2 アルジェリアにおける海水淡水化施設能力

 2006~2025年を期間とする水道投資計画では、重点投資5項目の一つに「淡水化とダム建設による水道供給量の増大」が掲げられていて、現在建設中の淡水化施設の処理能力は合計163万m3/日にのぼります。なお、水道投資と平行して下水道の整備も重点的に行われる計画となっています。

 首都アルジェ市の上下水道事業は、フランス・スエズ社にアフェルマージュ方式で委託されています。その他の上下水道事業のアフェルマージュとしては、オラン市(スペイン・アグバル社)、コンスタンティーヌ市(フランス・マルセイユ水道)、アンナバ市・エルタルフ市(ドイツ・ゲルセンヴァッサー)があります。これらのアフェルマージュ契約は、全国の上下水道の事業主体である国の公社、ADE(Algérienne des Eaux、水道)とONA(Office National de l'Assainissement、下水道)が共同出資して設立した各都市の上下水道事業会社のマネジメントをサポートする形となっている点が特徴です。間接的アフェルマージュ契約とでも呼んだ方が良いかもしれません。


■ナミビア

 ドイツの植民地時代に整備された上下水道施設と極度の乾燥気候による厳しい水資源賦存量を背景として、上下水道サービスは比較的高い水準にあり、普及率は水道43%、下水道18%となっています。

 上下水道事業は国有会社ナミビア・ウォーター(ナムウォーター)社が実施しており、現在でも独立採算による経営が成り立っています。こうした現状にあるため、民間企業による運営は、新設または拡張整備施設に限定されています。

 なお、首都ウィントフックにおける上下水道料金は、10m3使用の場合、水道約870円、下水道(定額制)約640円の合計1,510円とかなり高い水準で、独立採算経営がうなずけるところです。

 興味を惹かれるのは、首都ウィントフックで下水処理水の直接飲用が行われていることで、飲用処理施設の規模は21,000m3/日、建設(旧施設の改築)と運営は、ベルリンウォーターインターナショナル社、ヴェオリア社、オーストリア(現インド)のVAテック・ワバッグ社のJVが受注し、2002年から20年間のアフェルマージュ方式で実施中です。ちなみに、この処理水の直接飲用はすでに1968年から実施されていて、改築後の処理方式は、凝集沈殿、砂ろ過、オゾン酸化、粉末・生物・粒状の各活性炭、膜ろ過、塩素消毒を組み合わせたものとなっています。

 なお、2007年からはRO膜による海水淡水化施設が稼働しており、今後も増加していく見通しです。


■セネガル

 セネガルはフランスの旧植民地で、1960年に独立しています。フランスとのつながりは現在でも深く、フランス語が公用語として使われています。パリを起点として首都ダカールを終着地とするパリ・ダカールラリーも有名です(ただし、2009年からは開催地が南米に変更)。

 1人あたりのGDPは低いにもかかわらず、上下水道の普及率が比較的高いのが特徴的となっています(水道48%、下水道23%)。これは、独立以来、社会党政権のもとで内政は安定して推移しており、他の諸国のように内戦を経験していないことが大きいと思われます。

 不法接続と料金不払いの取り締まりが自治体レベルでは困難で、これらに起因する当時の国営水道公社(SONEES:Société Nationale d'Exploitation des Eaux du Sénégal)の財務状況の悪化に対処するため、1995年、政府がアフェルマージュによる民営化を決定した経緯があります。ソー社を筆頭株主とする運営会社SDE社(Sénégalaise des Eaux)が1996年から15年間(当初10年+延長5年)のアフェルマージュ契約により、全国都市部の水道事業を運営しています。


■ガボン

 ガボンは、サハラ南部諸国第6位の産油国で、国民の所得水準は高いにもかかわらず、上下水道の普及率は、水道45%、下水道6%とそれほど高くはありません。これは、原油の採掘が始まったのが1970年代と比較的新しいこと、また政権運営の効率性が必ずしも高いとはいえないこととも関係があるでしょう。

 石油の輸出に依存した経済であるため、原油の価格変動の影響を直接に受けることは避けられません。1986年の原油価格の暴落に端を発する経済危機に際して、債権者の一つであるIMFは、行財政改革の一環として水道の民営化を強く指導しました。ガボンは、国民の所得水準が高いため、重債務貧困国イニシャティブや貧困削減・成長ファシリティの対象国とはなりませんが、それに準じた扱いとして、重債務貧困国に対するのと同じ指導を行ったわけです。これにより1997年、ヴェオリア社の100%出資で水道・電力公社(SEEG)が民営化されています(ヴェオリア社はのちに49%分を株式上場で売却)。現在、首都リーブルビルを含む三大都市で20年間の水道コンセッションが行われています。

      

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