トピックス  No.37 11/08/12  最終更新 12/03/15

平成23年度消費税法改正
~95%ルールが事実上、廃止へ~

新着情報

ご案内

業務実績

トピックス

調査研究

セミナー・掲載記事

研究所紹介

サイトマップ

ENGLISH


お問い合わせ


日本上下水道設計(株)


■はじめに

 平成23年6月22日、分割された平成23年度税制改正法案(「現下の厳しい経済状況及び雇用情勢に対応して税制の整備を図るための所得税法等の一部を改正する法律」等)が衆議院本会議で賛成多数により可決、成立しました。

 これにより、消費税では、平成24年4月1日以後開始する事業年度から、課税売上高が5億円を超える事業者は、いわゆる95%ルールの適用ができなくなり、実質的には多くの事業者の消費税及び地方消費税の納税額が増えることになります。

 また、事業者免税点制度の見直しも上下水道事業者に影響を与える可能性があります。たとえば、まだ事業を始めたばかりで、平成23年度までは免税事業者であった下水道事業者が、平成24年度の上半期(4月~9月)に課税売上高等が1,000万円を超えた場合、平成25年度から課税事業者となってしまい、現行よりも1事業年度、課税事業者となる時期が早まることになります。

 それでは以下に、95%ルールの見直しと事業者免税点制度の見直しについて説明してみたいと思います。なお、法令等の解釈については、個人的見解に拠るところも大きく、課税当局の見解と必ずしも一致しないことを十分にご理解ください。


■95%ルールの見直し

 今回の消費税法の改正で、上下水道事業者に最も大きな影響を与えると考えられるのが、いわゆる95%ルールの見直しです。これまで、上下水道事業では、課税売上割合が95%以上であったため、このルールを特に意識してこなかった皆様も多いのではないでしょうか。そこで、これまでの規定の趣旨や内容も含めて、この95%ルール見直しを詳しく見ていきましょう。

1.95%ルールとは(トピック№33「消費税入門①」も参考にしてください)

 消費税の申告計算においては、基本的には、課税売上に係る仮受消費税から課税仕入に係る仮払消費税の額を控除する形式で納税すべき消費税の額を計算しています。

 この申告計算の際、はじめに課税売上割合なる割合を計算しておき、この割合が95%以上であれば、基本的な考え方の通り、仮払消費税の全額を仮受消費税から控除できるのですが、課税売上割合が95%未満の場合には、仮払消費税を全額控除することは許されないのです。

 もともと消費税は、最終消費者が負担すべき税金であるので、商品やサービスが最終消費者に行き着くまでの途中に位置する事業者は、次の取引者へ消費税を転嫁させることが必要となってきます。

図1.課税仕入と非課税売上
(非課税売上部分は消費税が転嫁できていない)

 よって、課税仕入によって仕入れた商品やサービスを課税売上として消費税の転嫁をさせられていない場合(つまり課税売上割合が95%未満の場合)には、この転嫁できない消費税額分については、その転嫁できなかった事業者が、最終消費者に代わって消費税を負担すべきという考え方なのです。

 しかし、これまでは、課税売上割合が95%以上の場合には、納税額の計算等の事務的手続の煩雑さなどを考慮して、ほとんどすべての消費税が転嫁されているものとみなして、仮払消費税を全額控除することが許されてきたのです。これがいわゆる95%ルールです。

 したがって、95%ルール自体は、実務の便宜上、特例的に許容されてきた規定であり、本来の消費税の税負担の関係からは、趣旨に沿っていない規定であったというべきかもしれません。

 財務省では、この例外的規定のために生じた事業者の益税(転嫁できなかった消費税額)が年平均で約29億円に達すると試算していますが、ある税理士は、その額は平成22年度の値で計算しても、数千億円にも達するのではないかと指摘しています。

 いずれにせよ、消費税法の趣旨を全うできないことによって課税又は納税されていなかった消費税の額が相当な額に上っていたことから、95%ルールは以前から改正すべき論点として取り上げられていたのです。

2.95%ルールの見直しによる影響

 そこで、今回の消費税法の改正では、消費税本来の税負担のあるべき規定どおりに、課税売上高が5億円を超える事業者については、課税売上割合が100%でない限り、仮払消費税の一部をその事業者に負担させることとしたのです。

 それでは、この95%ルールの実質的な廃止によって、上下水道事業者には、具体的にどのような影響があるのでしょうか。

 まず結論からいえば、消費税及び地方消費税の納税額がこれまでよりも増えることになります。これは、控除対象外となる仮払消費税が、その事業者の新たな負担となることによるものです。

 また、消費税申告書の作成手続はもちろんのこと、日常的な取引の記帳や記録においても、事務的には負担増をまねくことになります。これは、後述する個別対応方式を使う場合においては、課税仕入を売上といわゆる紐付きで管理する必要が生じるためです。

 改正消費税法でも、課税売上割合が100%未満の場合の控除対象消費税額の計算として、従前通り2つの方法を認めています。

 1つは原則的方法である個別対応方式であり、もう1つは簡便的な方法である一括比例配分方式です。この点は、これまでの課税売上割合95%未満の場合の控除対象消費税額の計算規定と全く同じであり、単に適用される課税売上割合が変更となっただけです。

 一般的に上下水道事業者の場合には、控除対象税額の計算方法は、原則的方法である個別対応方式を採用することが有利になると考えられますが、この時に課税仕入を3つの区分に分類して把握することが必要となるため、この記帳や記録の作業も事務的負担の増大につながるのです。

3.個別対応方式と一括比例配分方式

 改正消費税法では、課税売上割合が100%未満の事業者は、仮払消費税の一部が控除対象外となるのですが、この計算方式(正確には控除対象税額の計算)として、従前通り、(1)個別対応方式、(2)一括比例配分方式の2つが規定されています。以下にその内容について、簡単に説明したいと思います。

(1)個別対応方式

 個別対応方式の計算は、まず、課税仕入を以下の3つに分類します。

  (a)課税売上のみに要する課税仕入
  (b)非課税売上のみに要する課税仕入
  (c)その他(課税売上と非課税売上に共通して要する課税仕入等)

 次にこれらを使って、以下の計算式によって仮受消費税額から控除できる控除税額を計算します。

  (控除税額)=(a)に係る消費税額+(c)に係る消費税額×(課税売上割合)

 上下水道事業においては、(a)の額が(b)や(c)と比較して圧倒的に多額となると考えられることから、この個別対応方式で計算を行うことが納税額の計算上、(2)の方法よりも有利になると考えられます。

(2)一括比例配分方式

 一括比例配分方式は、(1)と比べると非常に簡単な計算で控除税額を求めます。すなわち、

  (控除税額)=(課税仕入に係る消費税額)×(課税売上割合)

によって控除税額が求められるため、(1)でおこなわなければならない(a)~(c)の分類が必要ないのです。よって期中の取引においても、課税仕入を売上に対応させて管理する必要がなく、事務的な手間は省くことが可能となる方法です。

 しかし、上下水道事業の場合には、納税額が大きくなることから、事務手続が楽だという理由だけで採用することは許されないでしょう。事業を始めたばかりで料金収入が極端に低いなど、特殊な場合を除けば、採用には至らないと考えられます。

 また、いったん一括比例配分方式を採用すると、2年間は個別対応方式への変更ができないため、この点にも留意する必要があります。

4.個別対応方式による3つの分類

 ところで、個別対応方式における課税仕入の3つの分類は、それぞれどのような意味があるのでしょうか。今後は、これらの分類を1つ1つおこなわなければならないことになるため、この理解は非常に重要となってくるはずです。

 まず、(a)課税売上のみに要する仕入とは、仕入にかかった消費税が売上にすべて転嫁されていると考えられる場合の課税仕入のことをいいます。

 具体的には、浄水場や処理場の建設のための工事請負費(ただし、補助金分は除く)、あるいは浄水場、配水池、処理場、及びポンプ場などの維持管理のための業務委託費などが該当すると考えられます。これらはすべて課税売上である料金収入のためにおこなう課税仕入だからです。

図2.課税仕入と課税売上
(消費税はすべて転嫁できている)

 次に(b)非課税売上のみに要する仕入とは、仕入にかかった消費税がすべて非課税売上に対応する場合の、つまり最終消費者に転嫁されていない場合の課税仕入のことをさします。

 具体例としては、土地の売却のために必要となった建設業者に支払う造成費や人件費以外の経費などが該当すると考えられます。土地の売却は非課税売上に該当するため、この非課税売上のためにおこなわれた課税仕入は、(b)としてその消費税額が全額控除対象外となるべきだからです。

図3.課税仕入と非課税売上
(消費税はすべて転嫁できていない)

 最後の(c)その他(課税売上と非課税売上に共通して按分する課税仕入等)とは、不課税収入や課税売上と非課税売上の両方に対応する課税仕入等のことであり、具体的には、建設改良費の補助金分、遊休資産となっている土地付建物を売却した場合のその売却に要する経費などが該当すると考えられます。

 ただし、課税経費のうち、土地分と建物分に明確に区分できるものは上記の(a)又は(b)に該当するため、区分できないものだけが(c)に該当すると考えられます。

 そして、(a)に係る消費税額については全額控除し、(b)に係る消費税額については、全額控除できないこととし、(c)に係る消費税額については、課税売上割合に応じた分のみ控除できることとしているのです。

 このため、これら3つの分類のやり方によって、控除税額が変わってくることになり、その結果として消費税及び地方消費税の納税額も影響を受けることになるのです。

5.実務上の問題点

 前述したとおり、上下水道事業者の皆様は、個別対応方式で控除税額の計算をされることになろうかと思われます。このとき、課税仕入を3つに分類して把握することが必要になってきますが、この分類はどのような基準をもとにしておこなうのかを不安に思われる方も多いのではないでしょうか。

 実は、これは上下水道事業者だけの問題ではなく、一般の民間の事業者でも同じようなことに不安を感じているのです。民間事業者においても、これまで95%ルールの恩恵を受けていた業種が多かったため、置かれている状況としては全く変わらないのです。

 ただ、いま現在は消費税法の改正がおこなわれただけであり、具体的な法令の解釈等を取り決める基本通達等が法改正にあっているわけではないため、不明確な点も多いのが現状です。よって、今後も国税庁の通達やQ&Aなどに注意をはらって、最新の情報収集に努めなければならないでしょう。

 経営工学研究所でも、これら実務対応に関する情報を適宜入手して、トピックなどで取り上げていく予定です。


■事業者免税点制度の見直し

 事業者免税点制度の見直しについても、一部の上下事業者に関係する可能性があります。

 現行法では、消費税の課税事業者は、基準期間の売上高が1,000万円を超えるか否かで判定をおこないます。ここで基準期間とは、前々事業年度のことをいいます。よって、たとえば課税売上高が初めて1,000万円を超えたとしても、これまでは2事業年度後でなければ、課税事業者となりませんでした。

 しかし今回の改正では、事象者免税点制度の見直しでこの課税事業者となる時期が早くなる場合が生じてくるのです。

 下の図のように、平成23年度が免税事業者であっても、平成24年度の上半期で課税売上高又は給与支払総額が1,000万円を超えた場合には、翌事業年度である平成25年度から課税事業者となり、現行法よりも課税事業者となる時期が1年早くなることになります。

図4.課税事業者の時期が早くなるケース


■改正法適用時期

 今回の改正法の適用時期は、平成24年4月以降に始まる事業年度からとなっています。よって、上下水道事業者の皆様は、平成24年4月1日開始の事業年度からの適用ということになります。

 実際の消費税等の申告手続は、平成25年になりますが、消費税の各種手続の中には、事業年度開始前に税務署に届出が必要なものもありますし、個別対応方式の課税仕入れの分類など、事前に基準を設けて運用することが必要となりますので注意が必要です。

以  上

●トピックスの関連ページ
 地方公営企業の消費税入門①~納税義務の判定から特定収入まで~
 地方公営企業の消費税入門②~特定収入について
 地方公営企業の消費税入門③~調整割合に著しい変動があった場合~


トピックスに戻る