トピックス  No.32 11/02/10  最終更新 11/10/24

下水道を中心とするバイオマス利活用PFI事業の将来性

 「水と水技術」No.6(2010年7月、オーム社刊)への掲載記事を一部改変

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■注目される珠洲市と黒部市の取り組み

 下水汚泥とし尿や浄化槽汚泥、また食品残渣や生ごみなど他の廃棄物を合わせて下水処理場で処理するというのは、同じバイオマスを一括処理するという点からきわめて自然な流れですが、実例は限られています。下水道を中心にすえた全国初の試みは、能登半島の北端にある石川県珠洲市で2007年から始まり、続いて富山県黒部市が今度はPFI方式で事業を開始し、注目を集めているところです。

 珠洲市で導入されたシステムは、下水処理場内にし尿、農業集落排水施設の汚泥、浄化槽汚泥、また食品残渣や魚のアラといった生ゴミの受入施設を設置し、前処理(破砕・選別と50℃1時間の湯通しによる脂肪分の可溶化処理)を経て嫌気性消化を行い、発生するメタンガスと消化汚泥をそれぞれ加温・乾燥用の熱源と肥料として有効利用するもので、肥料は地域住民の家庭菜園用に無料で配布されています。供用を開始した2007年8月から既に3年余が経過し、施設は順調に稼働しているようです。環境省と国土交通省の補助金を受けていて、し尿等の受入施設までは環境省の循環型社会形成推進交付金を、それ以降の施設は国土交通省の新世代下水道事業の補助金が投入されており、両省の連携事業としても全国初の取り組みとなりました。

 黒部市の方は、BTO(Build, Transfer and Operate)方式のPFI事業で、し尿、農業集落排水施設の汚泥、浄化槽汚泥にコーヒーの絞り滓を受け入れ、嫌気性消化によるメタンガスを発電や乾燥用熱源として、また消化汚泥を肥料として有効利用するというものです。荏原エンジニアリングサービス㈱(現:水ing㈱)を代表企業とし、㈱荏原製作所と荏原環境エンジニアリング㈱を構成員とする荏原グループが公募型プロポーザル方式によって事業者に選定されました。2009年度から設計・建設に着手、2011年5月には施設が完成し市への引き渡しがなされています。

 このような動きを踏まえて、(財)下水道新技術推進機構では、「下水処理場へのバイオマス(生ごみ等)受け入れの手引き」(2010年3月)をまとめ、下水処理場に生ごみ等のバイオマスを受け入れる際の検討のフローや手順、事例等を明らかにしています。


■老朽化が進むし尿処理施設

 珠洲市が事業に踏み切った最大の理由は、老朽化したし尿処理施設の更新の必要性であったといいます。市町村合併によりそれまでのし尿衛生処理組合が解散したため、引き継ぎ後の体制構築が急務となっていました。

 環境省の「一般廃棄物処理事業実態調査」(2008年度)によれば、全国には約1,000箇所のし尿処理施設が稼働しています。それらの施設の供用開始後の平均経過年数は19.8年で、そのうち20年以上の施設は495箇所、30年超の施設は177箇所にのぼっています(図-1)。処理方法にもよりますが、一般にし尿処理施設で30年もたてば、配管類を中心にボロボロの状態となるのは避けられません。近傍かつ近々に増設の計画があったり、能力や敷地に余裕がある下水処理場があれば、そこで一体処理を行うというのはごく自然な流れといえるでしょう。珠洲市の新施設の供用開始に伴い、現在は休止となっている「珠洲市・能登町衛生センター」も、1985年度の供用開始以来22年が経過していました。

 実際に、国土交通省で制度化されてきた「汚水処理施設共同整備事業」(通称MICS)でし尿や集落排水施設、コミプラ、浄化槽汚泥などとの共同処理施設を設置する案件の数は、前述の珠洲市と黒部市を含めて51箇所(2008年度末現在)にのぼっています。


図-1 し尿処理施設の供用後の年数別施設数の割合


■一体処理を阻む要因

 2007年9月に㈱環境新聞社が全国の1,527団体を対象に行ったアンケート調査(回答は229団体)によれば、「下水汚泥を他のバイオマスと一体的に処理・活用する考えは?」という問いに対し、「ない」が149団体(74%)と最多、「検討中」または「ある」が34団体(17%)、「実施中」が5団体(2%)となっています(環境新聞、2007年9月5日付下水道の日特集号所載)。

 このように、自治体レベルでも、下水汚泥と他のバイオマスとの一体処理に対する取り組み姿勢は決して積極的とはいえないのが現状です。それはなぜか、理由としては次のようなものが考えられます。

地理的ミスマッチング

 受け入れる下水処理場との距離が離れすぎていたり、少量の発生源が広域的に分散している場合には、輸送コストが嵩むため、採算面で厳しい条件となります。

時間的ミスマッチング

 お互いの施設の更新や増設が必要な時期、また発生する時期や量が折り合わないことがあります。

受け入れるものの品質

 例えば食品残渣には、箸や爪楊枝、またビニールなどの夾雑物が含まれており、これがあまりにも多いと、破砕したり選別したりする手間とコストがかかります。また、品質が短期間に激しく変化しないことが安定的な処理には望ましい点です。
 逆に品質が安定して良いものは、ほかでも引っ張りだこ、ということもあります。たとえば、下水汚泥のコンポスト化の際、水分調整と臭気の吸収を兼ねた副資材として、おが屑を添加することがあります。しかし、おが屑は、畜産糞尿のコンポスト処理でも結構な量のニーズがありますので、思うようには量が確保できない場合があります。また、魚のアラなども、肥料の材料として有価で引き取る流通ルートが確立されている場合があり、そちらとの競合関係も発生します。

コーディネーターの不在

 似合いのカップルもひょっとした出会いの場や紹介者がいないと成立しません。また、安定した販売先を確保できなければ、あるいは長期的な採算が見込めなければ、事業は成立しません。「適材適所」ではありませんが、バイオマスの処理によって何を得ようとするのか、商品としてエネルギー単独、モノ単独、またエネルギーとモノの組み合わせで行くのか、あくまで公共事業として採算性は度外視し、イメージアップや地球温暖化対策を目玉とするのか、まず方針を決めた上で、事前に十分な市場調査を行い、ニーズとニーズを出会わせるコーディネート役が必要といえるでしょう。


■バイオマスの処理法

 バイオマスの一般的な処理方法には、処理温度により、図-2に示すようなものがあります。バイオマスといっても、その種類はさまざまであるため、例えば剪定枝をコンポスト化する場合には、破砕などの前処理が必要となります。

 温度が高くなるにつれて、加温に必要なエネルギーも増加する反面、バイオマス中の成分の分解によって得られる熱エネルギーの有効利用も可能となります。ただし、システムが複雑化・高度化することも避けられません。


図-2 バイオマスの主な処理方法と生成物

 なお、廃棄物処理の分野では、旧厚生省による1997年の「ごみ処理に係るダイオキシン類発生防止等ガイドライン」、また1999年に制定された「ダイオキシン類対策特別措置法」などの一連の法規制を踏まえ、焼却時に発生するダイオキシン類の発生を抑制する観点から、従来使用されてきた焼却炉をガス化溶融炉に転換する動きが進んだ一時期がありました。図-2のガス化と溶融を組み合わせたプロセスです。しかし、このガス化溶融炉導入後の維持補修費が当初の予想を大幅に超え、費用の負担に自治体やメーカーが頭を痛めるケースが続出していることは、既に数多く報道されているところです。その基本的な理由は、1200~1500℃という高温とゴミ質の変動による炉内のひび割れによるようです。


■見直されるべきコンポスト化

 コンポスト化は、微生物とバイオマス中の有機物との反応熱によって、加温が基本的に不要で、プラントのシステム構成も単純です。また、得られるコンポスト製品も、窒素やりんの肥効成分のほか、各種の有機物や無機物を含む有機質補給資材として、利用価値は高いものがあります。

 珠洲市や黒部市では、嫌気性消化を中心に据えて主に「エネルギー」を利用するシステムとなっていますが、コンポストという「モノ」の安定した販売先の確保が見込める場合には、コンポスト化は嫌気性消化に次いで注目すべきプロセスといえるでしょう。実際に、全国では次のような取り組み事例が出ています。

DBO(Design, Build and Operate)方式による佐賀市下水汚泥堆肥化事業

 佐賀市(環境下水道部)の下水浄化センターでは、DBO事業(『佐賀市下水汚泥堆肥化事業』)により、2009年10月から下水汚泥の堆肥化施設が供用開始されています。これは、共和化工㈱を代表企業とし、㈱山有、林建設㈱、佐賀環境整備㈱の4社のコンソーシアムが出資するSPC、㈱S&K佐賀が運営するもので、脱水汚泥(消化工程を経た後の消化汚泥を脱水したもの)の処理能力は日量30t(ウェットベース)、維持管理運営期間は2024年度末までの約15年間となっています。

 YM菌と名付けられたバチルス属に属する好熱微生物を種菌として使用するシステムで、80~90℃以上という超高温好気条件下で短期間で有機物を発酵分解することが特徴の一つとなっています。現在のところ、製品コンポストの引き取りを含めて、運営は順調に推移しているようです。


図-3 佐賀市下水汚泥堆肥化施設の全景写真
(㈱S&K佐賀のパンフレットによる。画面左下は既存の汚泥脱水機棟)

㈱福永微生物研究所による堆肥化施設

 兵庫県に本社をおく機械・環境エンジニアリング会社、㈱福永微生物研究所は、TF菌と命名された独自の土壌微生物活性菌群を種菌として、下水汚泥や畜糞尿などをコンポスト化する施設を開発しており、実施設が岡山県美作市と大分県阿蘇町で稼働中です。

 このうち岡山県美作市にある同社の施設では、下水汚泥(農業集落排水施設)、食品残渣、牛糞等を受け入れ、おが屑を副資材として混入し、約1ヶ月の発酵工程、約3ヶ月の熟成工程を経て製品化されています。材料の含水率、温度とpHを厳密に管理することと、十分な熟成期間を取ることが、発酵工程におけるアンモニア等の臭気の発生を抑制するとともに、製品の品質を向上させるために特に重要であるそうです。発酵工程における通気は、「TFリサイクルマシ-ン」と名付けられたスクープ式の自走撹拌搬送ロボットで自動化されている点も特徴となっています。

 この美作市にある施設で年間14,000t余り生産されるコンポスト製品は、全量が完売されているとのことです。下水汚泥を原料とした堆肥化製品が売れるか売れないかは、一にも二にも製品の品質いかんで、品質が安定し、肥効が確かなものであれば、多少値段が高くても確実に捌けるようです。

 

図-4 ㈱福永微生物研究所岡山工場における堆肥化施設
(写真はTFリサイクルマシ-ン)


■PFI事業により期待されるコーディネート効果

 下水道を中心とするバイオマスの利活用を成功させるためには、需要と供給をうまく結びつけるコーディネーターの存在が不可欠です。すなわち、下水道やし尿、浄化槽汚泥の処理場、食品残渣やおが屑などの発生源、再生処理業者、地場の建設業者、融資金融機関など、行政・民間双方に潜在する関係者をいかにうまく発見し、組み合わせるかがカギとなります。

 上記、黒部市下水道のPFI事業で2008年9月に公表された募集要項では、下水汚泥と一体処理するバイオマスのうち、事業系食品残渣としてコーヒー粕を指定する一方で、処理対象物の追加提案を許容する内容となっていました。このように、PFI事業やDBO事業として民間事業者の提案を募るなかで、応募者側にコーディネーターとしての役割を期待することも可能でしょう。ただし、募集の前に行政側で十分な下調べをしておく必要があることはいうまでもありません。


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