トピックス  No.30 10/07/22  最終更新 10/08/02

世界からみた逓増制従量料金の普遍性

 使用量が増えるほど水量当たりの料金単価が高くなる逓増制(逓増型、逓増、累進制、累進型、累進ともいう。)従量料金は、わが国では約65%の事業者で採用されています。これは、昭和40年代以降の経済成長と急激な都市化に際して、水需給の逼迫に対処し、また生活用水の低廉化を図るために採用されてきたものです。たくさん使えば、単価は安くなることはあっても高くはならないという一般的な通念に反するこの料金体系は、世界的に見てどの程度普遍性を持っているのか、世界各地域の代表都市の水道料金から検証しました。

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日本上下水道設計(株)


■水道料金算定要領における考え方

 「水道料金算定要領」は、全国の水道事業体が水道料金を設定する際の理論的基礎を与えるものとして、学識経験者の協力を得て昭和42年に日本水道協会により策定されたものです。

 平成19年3月に日本水道協会に設置された「水道料金制度特別調査委員会」は、平成9年10月に直近の改定がなされた同要領の見直しを行うために設置された委員会で、約1ヶ年にわたる調査・審議を経て、平成20年3月には委員会報告書と水道料金算定要領の改定案がまとめられました。少し長くなりますが、この委員会報告書で逓増型料金体系について述べている部分を次に引用します(全文は水道協会雑誌平成20年5月号に掲載、下線は引用者)。

 水道料金算定要領においては、昭和42年にはじめて策定されてから現在に至るまで、従量料金については一貫して均一料金制の立場がとられてきた。これは、個別原価主義の立場からは水1m3当たりの単価は水使用の多寡にかかわらず均一であるべきとする考えから採られてきたものである。
 しかしながら、水需給の逼迫や生活用水の低廉化の要請から、昭和40年代以降、多くの事業者で逓増型の料金体系が導入されており、平成19年4月1日現在では、約65%の事業者で逓増型料金体系が採用されている。本委員会が、「水道料金表」(日本水道協会)を基に、全国の水道事業者の逓増度について調査したところ、全国の水道事業者の平均逓増度は1.58倍にとどまっているものの、一部には7倍を超えている事業者もあり、それぞれの事業環境を踏まえて、逓増度の設定が行われているものと思われる。
 一方、現在では、普及率が97.3%に達し、ほぼ国民皆水道を実現する一方、大口需要者の節水の浸透、節水型機器の普及等により水需要は横ばいないし減少傾向で推移し、水需給状況が緩和してきているなど、逓増型料金体系が採用されてきた当時とは大きく環境が変化してきている。この結果、拡張事業の原因を大口需要者に求め、高額の従量料金単価を課す根拠が小さくなりつつある。
 また、近年、料金負担の大きい大口需要者を中心に、地下水利用の専用水道を導入する者が増加し、水道使用量の減少により、水道事業財政に及ぼす影響も無視できなくなってきている。
 このため、料金の設定に当たっては、原価主義に基づく受益者負担の原則を徹底し、基本料金や最低従量料金単価を適切に設定することにより、少量使用者にもコストに見合った負担を求めるとともに、最高単価を引き下げることによって逓増度を緩和し、料金体系を全体としてフラット化していくことが求められる

 このように、水道料金算定要領における考え方は一貫して均一従量料金が基本であり、逓増制従量料金の根拠が小さくなってきた現在では逓増度を下げて均一化を図ることが望ましいとしています。


■世界の主要都市における水道料金

 イギリス(イングランド・ウェールズ)とフランスの上下水道料金体系については、それぞれ本ホームページのトピックス英国上下水道事業会社の上下水道料金フランス主要都市の上下水道料金でみたとおり、従量料金は基本的に均一制となっています。

 一般的に考えれば、水需給逼迫への対応と急激な都市化による生活用水の低廉化が必要な都市では、逓増制の採用が考えられます。ここでは、主要都市の水道料金として、英国のGlobal Water Intelligence(Media Analytics社)のウェブサイトに掲載された2009年の調査データ(Tariff Survey 2009)をもとに、逓増率と月20m3使用の月額水道料金(USドルベース、消費税・付加価値税抜き)をグラフ化してみました(図-1)。


図-1 世界主要35都市における水道従量料金の逓増度と水道料金

 この図を見ると、従量料金が均一単価(逓増度が1)の都市は13で、逓増制の場合も15都市は逓増度が3以下となっています。逓増度が3を超える都市は7都市と少数派で、東京都(区部)と横浜市が含まれています。マドリード、リスボン、ヴェニスと、ヨーロッパでもラテン系諸国の都市が顔を出している点も興味深いところです。

 ごく限られたサンプルに基づく評価になりますが、世界的には均一の従量料金が一般的であり、日本全国の水道事業者の平均逓増度は1.58倍という上記の委員会報告書を踏まえても、わが国の水道従量料金の逓増度は概して高いといえるでしょう。

 ただし、わが国の都市で特徴的な点は、基本料金+従量料金という料金体系の変法として、一定の使用水量までを基本料金のみとし、従量料金を0とする「基本水量制」が併用されている場合が多いことです。東京都(区部)・横浜市ともにこの基本水量制を採用しています。「基本料金÷基本水量」を最低従量料金単価とみなせば、実質的な逓増度は、図-1の逓増度よりは小さくなる場合があります。

 なお、この基本水量制を併用する料金体系では、使用水量の極めて小さい使用者層の負担が大きくなる傾向があるほか、基本水量以下の使用者層全体における節水努力を削ぐ結果につながるとの意見があることにも留意すべきでしょう。


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