トピックス  No.21 08/10/10  最終更新:11/11/21

覆面座談会(第五弾):管路資産の付加価値を上げるには(その1)

2008年10月06日 月曜日 15:00~17:00
  出席者:経営工学研究所、経営企画本部から ■、●、◇、▲、◆、○

 全国で約100兆円といわれる上下水道資産のうち、約7割は管路施設です。今後の人口減少や水の消費量の減少により、管路施設の利用率が低下する地域が増えることが予想されるところです。このため、送配水や排水の機能だけでなく、水処理の機能も持たせるなど、管路施設の付加価値を高めていくことが国民経済の観点からも望ましいといえるでしょう。第五弾となる久々の覆面座談会は、ひとまず色々な情報を持ち寄って大まかな方向性を議論しました。

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■光触媒

■上下水道資産の中で管渠が占めるウェイトというのは大変大きいもので、全国の下水道資産(帳簿価格)概算約76兆円のうち、71%にあたる約54兆円が管渠だ。(編注:平成18年度末現在。地方公営企業年鑑のデータを用いて経営工学研究所が独自に算出)。水道で管路が占める割合もほぼ同じ位。これだけの資産を単に水を流すだけに使っているのは勿体ない話でしょう?。下水管の中に光ファイバー通信ケーブルを引こうという管内空間利用も前から提唱されているけれど、あまり普及しない。5年ほど前、国交省の呼びかけで「下水道未来計画研究会」という場が設けられて色々議論したが、そこでも台所のディスポーザの完備で排水収集の付加価値を高めようとか、下水管を使って物流網を構築しようとか、いくつかの提案があった。自分としては、その中の「処理場のいらない下水道」というのが気に入っていて、要するに下水管を流れる間に下水を浄化してしまいましょうというものだ。新素材として光触媒とか、腐食に耐えるコンクリート「ビックリート」とかが製品化されているし、ほかにも色々新しいシーズ技術が開発されているようなので、その辺を色々探りたい。管路資産の新しい有効活用方法によって、少しでも上下水道経営にプラスになるような提案ができれば素晴らしいと思う。

▲管内で生物処理となると曝気が必要ですが、外力は流れだけなので、撹拌効果が期待できるか微妙ですね。段差状になった区間以外では難しいんじゃないでしょうか。

■下水管内で進む反応については教科書もあって、(編注:「下水道管渠内反応-生物・化学的処理施設として-」(T.H.Jacobsen原著、田中修司氏ら5氏による邦訳、平成16年、技報堂出版刊))、当社の札幌事務所には管内反応に関する研究を大学の卒業論文にした若手社員もいる。単純な曝気の効果はあまり大したことはないらしいので、何も仕掛けをせずに流れているだけで処理完了、というのは土台無理だね。

■管の内底に例えば光触媒を貼り付けて、流れる下水の上から光を当てるというのはどうだろう。

▲光触媒というのは、酸化チタンに紫外線を当てると表面にフリーラジカルが発生して、それが分解力を持つという原理です。まあ、いわばオゾン処理のようなもの。フリーラジカルの量は紫外線の量に比例するので、下水を処理するにはかなりの量の紫外線を照射する必要があります。暗い管渠の中にどうやって多量の紫外線を引き込むかがまず問題ですね。

◇地表から光ファイバーを通じて管内を照射というのはすぐ考えつくけれども、残念ながら光ファイバーは紫外線を通さないし、光ファイバーケーブルのメンテナンスも結構大変だ。

●紫外線消毒でも、水中の懸濁物質が多いとそれが邪魔してなかなか消毒効果が上がらない。生下水だと懸濁物が多量なので、上から紫外線を照らしても光触媒まで届かないかも。

▲結局、光触媒というのは消毒や殺菌といった程度にしか期待できないかも知れませんね。ただ、光のいらない光触媒でリン酸チタニアという素材があります。大阪市立工業研究所が研究開発して特許申請もしているものですが、分解メカニズムは現在解明中ということです。これなどは将来性があるんじゃないでしょうか。

○もしやるとしても、管じゃなくてマンホールの蓋や内部を加工して、そこで光触媒による分解反応を起こさせるという形が現実的でしょうね。


■節水機器、無水トイレ

■最初の話の続きだけれど、1990年代の下水道建設バブルは、国をあげて内需拡大と生活関連社会資本整備を図るという動きに景気対策が加わったものだ。発端は1980年代後半の日米構造協議で、小室直樹という政治学者によれば、生活関連社会資本は生産基盤社会資本と比べると長期的な経済波及効果が小さいので、日本の経済力を削ぐ戦略の一環としてアメリカに押しつけられた面があるらしい。まあ、これは陰謀論の一種かも知れないけど。今後人口減少が進めば、下水管の利用率はどんどん下がるし、かといって50年以上はもつように造ってあるわで、本当に何か付加価値を高めることを考えないと。下水管の利用率という点では、今後の節水の動きが気になるところで、最近割と話題になる無水トイレとか節水型というのはどんなものなの?

◇最近のトイレは、とにかく水量を減らす方向で進んでます。従来型は1回流すと12~20リットル位なのが、節水型は6~12リットルと半分、飛行機や鉄道車両で採用されている真空吸引式となると0.3リットルと激減します。トイレ用水が使用水量に占める割合は、一般家庭で約30%、オフィスビルでは約70%といわれるので、節水型普及の影響は結構大きい。そのほか、大か小かをトイレに滞在する時間で自動判別するといった節水機構もあるようです。

●ウォッシュレットの水の使用量はどの位なんですか。

○資料をみると、1人1日0.8リットル程度とあって、微々たるものですね。

◇無水トイレというのは、水を流さない小便器で、大きいところでは南海電鉄や南海フェリー、阪神梅田駅で導入されています。尿は水中のカルシウムイオンと反応して尿石ができ、これが臭いのもとになるので、水を流さなければ臭いを抑制できるというものです。尿は下のカートリッジに溜まりますが、中に液体が入っていてその比重の違いによって尿が下に沈むようになっています。ブルーシールというものらしい。使用回数は7,000回、期間で3~12ヶ月は交換なしで使えるようです。㈱省電舎、シロキ工業㈱、㈱ミヤコ産業のほか、今年8月からは㈱INAXが販売を開始しています。

●手入れの状態にもよるんでしょうけど、全く無臭というわけではないようですよ。

◇そのほか、山などで使うバイオトイレも無水トイレの一種で、おが屑に染みこませてコンポスト化するというものですが、能力に限界があること、おが屑を適時に補給する必要があること、加温、撹拌が必要なことがネックといえます。製品としては、㈱東京サンツール、正和電工㈱、(有)シャウトプロダクションズといった会社が取り扱っています。

◆水の量が減ると、固形分は減らないからその分下水は濃くなる。ディスポーザにより下水の濃度は2割程度上がるので、このディスポーザの普及が加われば、相当濃い下水が下水管を流れることになる。生物の増殖には、餌とする下水の濃度は濃い方がよいので、管内での生物反応を促進する点では良い方向に働くかもしれませんね。


■ビックリート

○ビックリートというのは、コンクリートに硫黄酸化細菌に対する防菌剤を混入したもので、圧縮強度、曲げ強度、クリープ等の特性は普通のコンクリートと変わりません。この防菌剤(ビック剤)は、ニッケルとタングステンに数種の特殊鉱物を混ぜたもので非常に安定した材料ということです。従来のコンクリートの防食方法は、表面に樹脂コーティングしたり、樹脂シートで被覆したりするものですが、ビックリートは傷に強く、長持ち、また施工性が良いといわれてます。費用でどちらが得かはビックリート製品協会に問い合わせる必要があります。実績件数でみると、組立マンホールに使用するケースが全体の9割、残りが管体に使われています。

◆かなり前からあるような気がするけれど、製品化はいつ頃?

○建設技術審査証明を平成11年に取っているので、製品化はほぼその頃でしょう。ビックリート製品協会には約20社が加入していて、導入している自治体は甲信越と北陸方面に多いようです。


■リン吸着コンクリート

■リン吸着コンクリートというのは、ハイドロタルサイトというリンを吸着する粘土鉱物をコンクリートに混ぜてブロック状にしたもので、P-CONという製品名で商品化されています。島根県に本社のある㈱イズコンという会社が島根大学などと共同研究で開発したそうだ。その応用で高性能リン除去装置というものもあり、ハイドロタルサイトを付着した繊維(リン吸着材)を充填したタンクを通すことで処理水のリンは0.5mg/L以下になるらしい。一定の周期でリン吸着材を取りだしてリン回収装置に通すことで、高純度のリン酸カルシウムを回収できるということです。そのほか、開水路の側面にリン吸着ボードを取り付けた「リン吸着エコ水路」というのもある。

▲このリン吸着コンクリートをビックリートのように管体に使ってしまうと、リンを回収するには管を壊さないといけないですね。開水路の場合でも、流れるのが生下水だとすぐ目詰まりしてしまいそう。

◆つい先日、下水からリンを回収する技術開発が加速しているという新聞記事がありました(日経新聞H20.9.8付夕刊)。紹介されている技術は、下水汚泥の焼却灰から取り出すというものがほとんどですが、背景にはリン鉱石の輸入価格が高騰していることが大きいようです。記事によれば、2000年に1万円/tを切っていたリン鉱石の輸入価格が、今年5月には2.3万円/tに上昇したとのことです。

■下水管内での処理を考えると、ハイドロタルサイトを付着させた担体を上流から流して下流側で回収するという形が現実的かも知れない。ハイドロタルサイトだけではなく、微生物も一緒に担体に封じ込めて流せば、下流側では水処理がかなり進んでいるということになるかも。ただ、流下中の摩耗に耐え、ハイドロタルサイトをしっかり担持し、かつ微生物の担体に適した柔らかさを持つというような、都合のよい素材があるかは甚だ疑問。ただ、これができれば、下流端では固液分離だけすればよいので、これから処理場を更新しなければならないが資金がないという所ではかなり使えそうだ。


■膜処理

●先日、水環境学会のシンポジウム「水処理に膜は必要か」で話をしてきました。膜処理の導入はもう少し増える筈だと思っていたが、実際はあまり増えていない、これは何故かという内容です。水道では、クリプトスポリジウム対策の暫定指針が平成7年に発表されて急激に増えたんですが、実際導入してみると維持管理費が高い。ただ、維持管理にノウハウはあるようで、それで膜の寿命も大分変わるようですが。膜の値段自体は昔と比べるとかなり安くなっていて、ここ10年位でだいたい半額以下になっています。新しい膜の素材の開発は、技術的に可能であっても、世界的に普及する見通しが立たないと企業としてなかなか踏み切れないようです。とにかくコストダウンが最大の課題といえるでしょうね。

◆下水処理で膜といえば、何といっても下水処理場での膜分離活性汚泥法で、下水道事業団では積極的に取り組んでいます。

●生下水を膜で、というのは技術的には可能でしょうが、膜を使う条件としては非常に悪い。微生物によってすぐ閉塞するので、水流の激しいところでスポット的に固液分離する程度でしょうね。

覆面座談会(第六弾):管路資産の付加価値を上げるには(その2)に続く】

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