トピックス  No.17 08/06/10 最終更新:11/02/17

近江八幡市立総合医療センターPFI事業に照らした水道、下水道の民間化の問題点

 近江八幡市の総合医療センターPFI事業については、その現状が日経新聞紙上で取り上げられ、大きな社会的インパクトを与えたといえるでしょう。PFI実施に当たっての判断や見通しといった経緯の問題はさておき、目下の経営改善を図る上での障害として、病院側は医療と事業経営を行う一方、SPC側は周辺業務を実施(再委託業者をマネジメント)するという「指揮命令系統の二元化」が非効率な運営を招いているということがあります。このことは、上下水道事業者の民間化を広げていく上でも大きな障害として立ちはだかる可能性があります。
 今回は、この点を整理するとともに、上下水道事業における解決策として考えられる組織運営上の工夫について考察を加えました。

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■日経新聞報道の内容

 いささか旧聞には属しますが、2008年2月25日付け日経新聞朝刊に「病院PFIに赤字の壁-甘い事業計画、目算狂う-」と題した記事が掲載され、この中で滋賀県近江八幡市の市立総合医療センターPFI事業の現状が大きく取り上げられました。この記事によると、旧病院の建て替えをPFI事業で実施することで、市の直接経営に比べて68億円のコスト削減効果を見込んでいたにも関わらず、甘い事業計画により目算は大幅に狂い、大きな赤字が発生している、とされています(2007年度の赤字額は約24億円、2013年度末の見込み債務は約70億円とのこと)。

 もともとの近江八幡市民病院は、1966年の開業から約40年を経て老朽化が進んでいたことから、新病院の建設にあたって(財)日本経済研究所がアドバイザーとなってPFI導入可能性調査が行われ、BOT方式の導入が決定されました。引き続き、同じ(財)日本経済研究所をアドバイザーとして事業者の公募・選定が行われ、2002年8月に㈱大林組を代表企業に㈱内藤建築事務所、東レ建設㈱の三社のコンソーシアムがPFI事業者に選定されました。3年間の設計・建設期間を経て、2006年10月には新病院(市立総合医療センター)が開業しています。その後、同年12月の市長選で川端五兵衛前市長の引退により市長が交代、冨士谷英正現市長のもとで平成19年12月には長隆氏(公認会計士)を委員長とする「近江八幡市立総合医療センターのあり方検討委員会」が設置され、2008年1月にはその提言が市長に提出されています。

 同記事は、「約140億円をかけて新設した病院のロビーにはグランドピアノが置かれ、壁には絵画がかかる」といった表現も相まって、何かPFI事業者による野放図な投資や杜撰な運営が市の財政に穴を開けたような印象を与えます。しかし、公募にあたっての業務要求水準、審査基準書、条件規定書(契約書案)等の公表、それに基づいた応募者の提案書提出、応募者との対話(質疑応答やヒアリング)、第三者委員会における価格・技術両面からの客観的な提案書審査、契約締結による役割と責任の明確化、というPFI事業の一連のプロセスを経ていることを考えれば、それはミスリーディングというべきもので、PFI事業者にとってはあまりにも不当な濡れ衣ではないかと思われます。(なお、SPCはコンソーシアムの代表企業である㈱大林組の全額出資会社です。)


■総合医療センターのあり方に関する提言の概要

 上記のとおり、2007年12月4日に初回が開催された「近江八幡市立総合医療センターのあり方検討委員会」は、12月25日に第二回、翌1月21日には最終回が開催され、同日「近江八幡市立総合医療センターのあり方に関する提言」と題した提言が市長に提出されました。同提言から、これから講じるべき改善策を要約すると次のとおりです。

(1)経営計画の再検討
 経営計画を再検討し、その結果によっては、PFIの契約条件や金額の大幅な見直し又は契約の一部解除等が必要かを決定すべき。

(2)支出費用の適正化
 毎年4億円の支出削減を図る。不可能であれば、施設整備及び維持管理・運営各々についてPFIの契約内容を見直す。特に金利負担額が鍵となるため、支払条件の変更等についてSPCと交渉を行い、その進捗次第ではPFI契約自体の見直しと地方債等による借換を検討すべき。また、現在の修繕費平準化払いには問題があるため、条件の変更をSPCと交渉すべきである。

(3)委託職員との直接的な協働関係の構築等
 SPCから再委託を受けた各種業者は、病院と直接の契約関係になく(そのために病院側から直接の指示ができず)、またSPCが各現場に権限をもった責任者を配置していないために非効率が生じている。実質的な調整権限のある職員を常時すべての委託業務の現場に張り付けることをSPCに要求し、SPCが拒絶した場合には、少なくとも現在のSPC業者によるPFIの継続は解消すべきである。

(4)病院経営管理体制の強化
 院長を中心とした実質的な経営管理体制を強化すべき。

(5)市と病院の適切な関係の構築
 市の一般会計から病院に繰り出す繰入金の基準を設定する。また、地方公営企業法の全部適用事業であることを踏まえて、病院の人事や予算策定等における責任と権限を病院側に与えるべき。全部適用形態で改善が進まないのであれば、例えば地方独立行政法人への移行を検討することが望ましい。

 PFI事業契約の変更や解除に言及した項目が多くなっていますが、当事者間の協議と合意がそう簡単にいくかどうか、契約当事者である市の信用を失墜させるのではないか、またその混乱の過程で地域医療が犠牲にならないかを心配する声は当然あります。例えば、平成20年3月23日には中谷哲夫氏(滋賀県議会議員)を会長とする「近江八幡市立総合医療センターを考える会」の設立記念シンポジウムが開催されています。インターネットの報道記事注2)によれば、同シンポジウムでは「PFI解除には違約金や期待収入の支払いなど約400億円の債務が必要となり、PFI法の規定からも難しい」といった指摘があったそうです。

注2)例えば、滋賀報知新聞の次の記事を参照。http://www.bcap.co.jp/s-hochi/bno/2008/08-03/n080325.html#5


■上下水道事業の民間化における懸念

 あり方検討委員会が提言した改善策のうち、「(3) 委託職員との直接的な協働関係の構築等」は、そもそも、コア業務である医療行為と病院事業の経営は市が行い、ノンコア業務注3)は民間事業者が(再委託業者をマネジメントしながら)行うという指揮命令系統の二元化が原因となっています。これは、医療法第7条第5号に「営利目的の場合は、都道府県知事等は開設の許可を与えないことができる」という規定があるため、市が行う病院運営の全てを株式会社であるSPCに委託できないということが背景になっています。

 病院側からすれば、周辺業務とはいえ医療法第15条の2と同法施行令第4条の7に基づく「診療等に著しい影響を与える業務」を委託しているのだから、日常の医療業務のパートナーとしてもう少しきめ細かく対応してほしいと感じる一方、SPC側からすれば、医療そのものや事業経営にはタッチできない以上、必要以上に病院側の本来業務に嘴を入れるのは越権行為という意識が生まれることになります。結果として非効率な運営体制が生まれることは、ある程度避けられないともいえるでしょう。

 注3)病院施設整備業務以外にPFI事業者が行うべき業務は次のとおりです。
 ①病院施設維持管理
  ・建築物・建築設備・付帯施設・総合医療情報システムの保守管理
  ・清掃、環境測定、植栽管理、警備
 ②病院運営
  ・医療事務
  ・検体検査
  ・物品管理
  ・総合医療情報システム運営
  ・病院給食
  ・消毒・滅菌
  ・リネンサプライ
  ・健診センター運営
  ・電話交換
  ・図書室運営
  ・利便施設運営(売店、レストラン、フラワーショップ、理容・美容室)
  ・その他サービス業務
 ③その他
  ・引越支援
  ・現病院の解体撤去
  ・経営コンサルテーション
  ・市への病院施設所有権移転

 この指揮命令系統の二元化の問題は、上下水道事業の民間化においても大問題となりえます。上下水道に分けて考えてみましょう。

(1) 水道事業(第三者委託)の場合

 水道法第24条の3に基づく第三者委託は、水道の管理に関する技術上の業務を委託するもので、委託業務内容における水道法上の責任を受託者に負わせることとされています。このことについて、「第三者委託実施の手引き」(厚生労働省健康局水道課)では、次のように解説しています。

第三者委託を行う場合であっても、水道事業を経営するのはあくまで委託者である水道事業者等であり、委託業務範囲内の業務に係る受託者に移行した責任を除く水道法上の水道事業者等としての責任や給水契約に基づく需要者に対する責任を負っている。したがって、受託者の不適切な業務が原因であっても、水道事業者等として常時給水義務等の需要者等に対する責任が果たされない場合には、水道事業者等としての責任を問われることになる。」(同手引き3頁)

 この引用部分は、第三者委託制度で最も理解しにくい点といえるでしょう。役所側の水道技術管理者と民間側の受託水道業務技術管理者の見解が対立する場面も当然ありえますが、需要者に対する最終責任は役所である水道事業者が負うのであれば、受託水道業務技術管理者の立場と発言力は必然的に弱くならざるを得ず、第三者委託とはいっても結果的に通常の業務委託と何ら変わらないことになります。

 例えば、水道法第23条第1項(給水の緊急停止)によれば、水道事業者は、供給水が人の健康を害するおそれがあることを知った場合、直ちに給水を停止し、かつ危険である旨を関係者に周知させなければなりません。この「人の健康を害するおそれがある」かどうかの判断にあたっては、厚労省令の水質基準値又は水質管理目標値が目安になりますが、基準値をかろうじてクリアしている場合に給水の継続を優先するか、人の健康を優先するかは、受託者の技術的な判断のほか、水道事業者としての判断も必要となります。

 こうした場合、受託者としては、技術的な観点から水道事業者に見解を述べることが精一杯のところで、最終的な判断は水道事業者に仰がざるを得ません。水道事業者は、最終ユーザーである需要者や需要者の代表である議会を相手にしながら事業を経営しているため、その発言力は強大です。受託者にとってみれば、水道法上の責任を伴うことによる業務上のリスクは増大する一方で、業務範囲が技術上の業務に限定されているため需要者や議会との直接的な接触や協議・交渉の機会は与えられず、役所に対しては判断を仰いだり細かな指示を受けたりという板挟みになる可能性があります。

 同じ水道事業の中で、技術とそれ以外に分けて建前上二つの指揮命令系統が存在するが、実態は委託・受託の上下関係でしかないとすれば、受託者側の創意工夫・改善の努力を削ぎ、結果として非効率な運営体制となりかねないところです。

(2) 下水道事業(包括的民間委託)の場合

 下水道事業では、下水道法に基づき下水道管理者は普通地方公共団体に限定され、公権力の行使に関わる業務の民間委託は不可能とされています。民間委託は運転操作、保守点検、清掃といった事実行為のみが対象となりますので、民間事業者の裁量範囲は水道事業よりもさらに狭まります。包括的民間委託は複数年契約と性能発注を特徴とするため、受託者は現場に精通し、事実上現場を取りしきることが可能な一方で、契約上は委託業務の一受託者の立場にとどまります。

 幸いにして包括的民間委託の事業者選定方法は、水道の第三者委託も同様ですが、技術と価格の両面から評価する総合評価一般競争入札(又は公募型プロポーザル)による場合が多いため、努力した実績を次回の受託に結びつけるというインセンティブにはなりますが、指揮命令系統の二元化の弊害は水道事業と同様に懸念されるところです。


■指揮命令系統の二元化の弊害を克服する方法

 人事・経営コンサルタントの南雲道朋氏(㈱HRアドバンテージ取締役)は、その著書「多元的ネットワーク社会の組織と人事」(2007年10月、ファーストプレス社刊)の中で、組織内のコミュニケーションにおける「権威」の存在が明確でない場合は、組織が機能しなくなることに言及しています。ヒエラルキー(階層型)構造と、自由に網の目状につながるネットワーク構造のいずれの組織にも長短があるところ、特にネットワーク組織では権威の所在が不明確になることから、その改善策として「ダイナミックなツリー構造」を提案しています。これは、ITを活用して組織の固定的ヒエラルキーを壊しながら、なおかつ情報伝達に権威を持たせる方法で、少し引用が長くなりますが具体的には次のようなものです。

① テーマに応じてレポートラインをダイナミックに組み替える。特定テーマに関する事項については、ワークフローを組んでテーマリーダーにレポートラインを引っ張る。

② ERP(統合業務システム)が導入されていれば、ワークフローを組むまでもなく、テーマリーダーにアクセス権限を与えるだけで情報を集中させることができる。情報が集まれば権威も生まれる。

③ テーマリーダーの能力適格を組織内に保証できるよう、360度評価の仕組み(引用者注:上司だけでなく同僚、部下、取引先、顧客といった多方面から人材を評価する方法)を組織運営の中に明示的に組み込み、リーダーとしての適切性を定期的に評価し、不的確であれば交代させる制度とする。

④ 組織メンバーが果たすべき役割分担のパターンを明確に定義しておき、メンバーがある役割を明示して任務を遂行する時には、その役割の範囲において権威を生じるようにする。

⑤ 思考のリーダーシップが誰の目にも見えるようにし、リーダーシップを発揮する中心人物を公式にリーダーとして認証する。

 こうした「ダイナミックなツリー構造」は、役所と受託業者との関係というよりは、受託業者側の本社機構と現場との関係を再構築する上で示唆を与えるものといえます。役所(公務員)の価値観と民間の価値観は、同じようで違うところも多くありますので、役所の方をこうした「ダイナミックなツリー構造」の中に組み込み、受託業者と一体的に動いてもらうようにするには、さらに次のような工夫も必要となるでしょう。

◆ 受託業者からのレポートラインを役所の窓口担当者に一本化するのではなく、テーマに応じて、複数の上司の方にも情報へのアクセスを可能とする。

◆ 役所から受託業者、受託業者から役所への定期的な人事交流システムを構築する。

◆ 役所のOB人材を受託業者側で再雇用する。また、役所との付き合いが長い地元業者とJVを組むか、再委託先として活用する。

 このうち後の二項目は、コミュニケーションを円滑化すること以外に、組織成立の必要条件(コミュニケーション、協働意欲及び共通目的)の一つである「協働意欲」の醸成にも役立つと考えられます。


■SPCとの契約解除の動き

 京都新聞や産経新聞(関西版)、朝日新聞の報道によれば、市が病院の施設をSPCから買い取るため、118億円の起債を総務省に申請する議案が2008年12月の市議会に提出され、議決されました。この議案は、今年度の病院事業債の募集期限が2009年1月であるため、SPCとの契約解除に先立って起債の申請をしようとしたもので、契約解除については12月25日に解約合意書に調印がなされました。

 この解除に伴い市が支払う違約金は、市の提示額約20億円で落着しましたが、SPC側の提示額は約65億円で、SPCとの交渉がまとまるかは五分五分(冨士谷市長)であった時期もあったということです。なお、約20億円の内訳は、SPCの逸失利益や建物の建設資金を融資した金融機関への損失補償で、うち約16億円は財政調整基金の取崩しで充当し、残り4億円はSPCに支払済みの建物修繕費の未使用分を充てるものとされています。

 PFI事業者選定時の募集要項に添付された条件規定書では、「第10 契約期間及び契約の終了」に契約解除に関する内容が規定されています。条件規定書とは、PFI事業者の選定後に締結する事業契約書の雛型となるものですが、事業契約書と同一の内容とは限りません。しかし、実際の事業契約書が公表されていないため、以下はこの条件規定書に基づく内容となります。

 PFI事業契約書における契約解除条項は、一般に「PFI事業者の債務不履行による解除」、「行政当局の債務不履行による解除」及び「行政当局による任意解除」の三つで構成されます。今回の近江八幡市のケースは、市やPFI事業者の債務不履行が原因ではありません。PFI事業を打ち切り、市の直営に一本化した方が市の財政上メリットがあり、病院の運営もうまく行くと市が判断したことが原因ですので、「行政当局による任意解除」に該当します。「PFI事業契約に際しての基本的考え方とその解説(案)」(2008.7.15、内閣府)では、この任意解除について次のように述べています。

 管理者等の政策変更や住民要請の変化等により選定事業を実施する必要がなくなった場合や施設の転用が必要となった場合には、管理者等は一定期間前にPFI事業契約を解除する旨選定事業者に通知することにより、任意にPFI事業契約を解除できる旨規定されることが多い。これは、選定事業が公共サービスを提供するものであり、不必要なものを提供することが社会的に無駄であるという特殊性から、管理者等の解除権の要件を約定により追加するものである。
 但し、PFI事業契約はその継続性、有効性に依拠して民間主体が投融資を実現するものである以上、管理者等による任意契約解除権の行使は本来想定外の事象になり、選定事業者側に大きな費用負担を強いることを認識することが必要である。管理者等はこれら費用を補償することが求められるとともに、予め補償の範囲や額に係る基本的な考えをできる限り明確に選定事業者と合意しておく必要がある。また、管理者等がかかる権利を行使する場合には合理的な理由があるべきで、安易な任意解除権の行使は両当事者にとり様々な問題を生じさせることに留意する必要がある。

 近江八幡市の条件規定書では、PFI事業者の債務不履行による解除と行政の債務不履行による解除は規定されているものの、行政による任意解除については明文化されていません。(同書第10の4に「市及び事業者に帰責事由がない場合」という条項がありますが、これは法令変更又は不可抗力の場合です。)市による任意解除という事態の発生は想定外であったと思われますが、病院事業のPFIとしては全国初であった「高知医療センター整備運営事業」(高知県・高知市病院組合、病院本館はBTO方式、職員宿舎などはBOT方式)の条件規定書でも、組合は「180日前の事前通知により、他に特段の理由を有することなくPFI事業契約を解除することができる」旨が規定されています。ただし、その場合の損害賠償については、「SPCによる、病院組合の債務不履行に基づくその他の損害賠償の請求は妨げるものではない」とある程度です。この点について、再度上掲「PFI事業契約に際しての基本的考え方とその解説(案)」を引用すると次のとおりです。

 理由を限定しない解除権を管理者等に与える場合、あくまで抑制的であること(すなわち簡単に行使されないようにすること)が基本である。したがって補償の額は、管理者等に責めが帰される債務不履行事由に伴う契約解除の賠償額算定と同じ考え方に立脚して算定されるべきである。

 近江八幡市の条件規定書では、市の債務不履行による契約の早期終了について「市は契約解除時における施設等整備費の残額及びこれに係る支払利息を、事業者の選択により、一括又は分割にて事業者に支払い、病院施設を買い受けるものとする。かかる契約の解除は債務不履行に基づく損害賠償の請求を妨げない。」としています。PFI事業契約の解除に係る交渉の細部は、市とSPCの当事者マターで外部からは知る由もありませんが、病院事業PFIでは全国初の解除事例であるだけに、できる限りの情報公開を望みたいところです。

 【追記(2010.9.2)】上記、高知医療センター整備運営事業は、わが国初の病院PFI事業としてオリックス㈱のグループが優先交渉権者として選定され、2002年12月に事業契約が締結されました。しかし、2005年3月の開院から5年を経た2010年3月に契約の合意解除がなされ、直営方式に移行しています。病院PFI事業の契約解除事例としては近江八幡市に次ぐ2番目となりました。「自治体病院PFIのあり方-高知医療センターの取り組みから探る-」(堀見忠司、『地方財務』2010年7月号所載)によれば、契約を解除せざるを得なかった理由として次の8点があげられています。
①病院組合が想定以上の赤字であるにもかかわらず、SPCの黒字が継続するという不自然な結果となったこと
②契約の締結や覚書の取り交わしを性急に行ってしまったため、医療や経済環境の変化、外部借入資金の利率を含めた新たな問題に対して柔軟な見直しや訂正が不可能になったこと
③運営開始後の5年間では、当初想定したVFMが得られなかったこと
④材料の調達や委託料の見直しにはSPCの協力が不可欠であるが、SPCには包括的に業務を委託しているため、SPCから再委託業者への対価支払額について病院組合が口出しできなかったこと。
⑤毎月のモニタリングにより発見された提案の未達事項が、改善されないまま残っていたこと
⑥SPCの医療マネジメント能力の不足により、企業団の助言や指導が必要であったこと
⑦材料費(薬剤費と診療材料費)の増大と契約目標値との乖離。(医療業務は病院組合が行うが、材料の購買管理・在庫管理はSPC業務)
⑧電子カルテシステムの不具合や要改善点が出ても、開院時のIT事業契約を盾にとられ改善できなかったこと


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