トピックス  No.14 08/02/18  最終更新 10/08/05

下水道事業への民間活力導入の適性判定指標(SPI)による市町村ランキング(H17年度版)

 平成19年12月24日に「公共サービス改革基本方針」の改定が閣議決定されました。この中では、水道施設、工業用水道施設及び下水道関連施設の維持管理業務で包括的な民間委託を推進するため、平成19~20年度に国の講じるべき施策が位置づけられました。下水道施設の維持管理業務を性能発注方式により複数年で契約する「包括的民間委託」は、全国的に導入が増えていますが、受託する民間企業にとっては、特に小規模自治体の場合、スケールメリットが得にくく採算をとることが難しいというケースがあります。包括的民間委託により民間の技術力とノウハウを活用してコスト削減を図るという自治体のニーズと、ビジネスとして最低限の採算性を確保しなければならない民間企業のニーズとが合致しない場合には、民間化の継続は困難となり、自治体の職員削減が一旦進むと後戻りが難しいことも手伝って、下水道施設の適正な維持管理ができなくなる懸念すらあります。
 経営工学研究所では、民間活力を必要とする自治体の逼迫度と採算性を求める民間のニーズの両面から、下水道事業における民間活力導入の適性を自治体ごとに評価する「下水道民活導入適性判定指標」(SPI : Sewerage service Pro-privatization Indicator)を考案しました。ランキング上位の市町村は、下水道事業に対する民間活力導入の条件が比較的整っていると見られる一方、ランキング下位の市町村で民活導入を推進していく場合には、条件整備に向けて例えば広域的取り組みなどの工夫が推奨されます。
 今回、平成17年度の統計データを用いたSPIの算出結果を公表します。

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日本上下水道設計(株)


■下水道事業における民間活力の導入状況


 平成16年3月30日付の国土交通省通知「下水処理場等の維持管理における包括的民間委託の推進について」では、下水処理場等の維持管理において、性能発注を基本とした「包括的民間委託」の実施を積極的に推進すべき旨を通知しています。ここで「性能発注」とは、施設管理に一定の性能(パフォーマンス)を確保することを条件とし、運転方法、配置人員等の詳細は受託業者に任せる方法です。従来一般的に行われていたのは、委託者が事細かく定めた業務の仕様を受託業者に遵守させる「仕様発注」ですが、受託業者からの業務改善提案や経費削減の努力を削ぐという指摘がなされてきました。

 下水道統計(平成20年度版、日本下水道協会刊)によれば、平成20年度末現在、包括的民間委託を実施している自治体の数は府県が8、市が80、町村が30、一部事務組合が2の合計120団体となっています。なお、包括的民間委託ではない、仕様発注による維持管理の民間委託自体は既にほとんどの自治体で実施されています。例えば、維持管理コストの大きな割合を占める下水処理場の維持管理のうち、水処理施設や汚泥処理施設の運転管理業務は、全部委託、一部委託を含めて90~95%の自治体が民間委託を行っています。

 なお、現行の下水道法では、下水道の管理者は地方公共団体のみとされていますので、フランスのアフェルマージュのように事業の運営権を民間に譲渡することはできません。施設の運転操作や保守点検、清掃、修繕のような作業、あるいは使用料の徴収や会計処理事務などの作業のみが民間委託の対象となります。



■SPI(Sewerage service Pro-privatization Indicator)とは

 下水道民活導入適性判定指標(SPI : Sewerage service Pro-privatization Indicatorの略)とは、下水道事業における民間活力導入の適性を各自治体ごとに評価するための指標群として提案するものです。下水道事業の民間委託の度合いを強めてコスト削減を図るという自治体側の緊急度と、民間企業が受託業務をビジネスとして成り立たせうる可能性の両面から、複数の指標を組み合わせて評価します。

 自治体側の逼迫度は、財政への影響度で評価し、これは実質公債費比率のほか、下水道事業会計と国民健康保険会計の収支不足額が一般会計に及ぼす影響を指標値として設定しました。このうち国民健康保険会計は、多くの自治体で一般会計から多額の繰り出しを行っていることから、下水道事業会計と資金を取り合う「ライバル」の代表として選定したものです。例えば、下水道事業会計に対する一般会計の繰出金がそれほど多額ではなくても、国民健康保険会計等の他の特別会計に多額の繰出金が必要であれば、一般会計側の財政的余力が小さいことから、下水道事業会計への繰出金を削減するニーズは大きいと判断できます。

 一方、民間側のビジネスとして成立する条件は、住民の負担能力(高齢化率が低いほど使用料等の負担能力が高いと考えられるため良いと評価)、整備の飽和度(今後の人口減少による下水道施設の能力過剰が生じる可能性が低いほど良いと評価)、整備の経済性(下水道施設の整備効率が高いほど良いと評価)の三つの側面から評価します。これら三つの側面は、下水道の整備計画の策定や事業の経営を民間が自ら実施できないものの、事業の採算性に直結する項目であるため、民間委託に際して予定価格の設定に反映されることを想定したものです。

 これらを整理すると下図のとおりです。SPIは、各指標ごとに偏差値を算出し、それを単純に合計することによって得られます。

 

 各指標を算出するための数値は、平成17年度市町村決算状況調(総務省)、平成17年度地方公営企業年鑑(総務省)、平成17年度市町村決算カード(総務省)及び市区町村別将来人口推計(平成15年12月推計、国立社会保障・人口問題研究所)の各データを用いました。

 また各指標の偏差値は、公共下水道、特定環境保全公共下水道又は農業集落排水事業の全体計画を持つ全国1,563の市町村を母集団として算出してあります。各指標の偏差値は平均が50であるため、全ての指標が平均点であればSPIは300となります。また、SPIが最も低い自治体は225.7点、最も高い自治体は377.0点となりました。


 各指標の詳しい説明は次のとおりです。

  • 実質公債費比率(市町村財政への影響度): 一般会計だけでなく公営企業会計の元利償還金への繰り出しや、一部事務組合の公債費の負担金等を含めた、自治体全体の実質的な公債費負担の程度を表します。実質公債費比率が18%以上で起債許可、25%以上で一般単独事業に係る地方債が制限、35%以上で一般公共事業に係る一部の地方債も制限されます。実質公債費比率が18%以上となる市町村については値を赤字としてあるほか、大きいほど偏差値も高くなるよう計算しています。
  • 下水道会計への繰出率(市町村財政への影響度): 一般会計から下水道事業特別会計に繰り出している繰出金が標準財政規模に占める割合です。標準財政規模とは、普通交付税を含めた自治体一般財源収入の見込み額で、総務省により毎年算出される数値です。この指標値が10.0%以上の市町村は値を赤字としてあるほか、大きいほど偏差値も高くなるよう計算しています。
  • 国民健康保険会計への繰出率(市町村財政への影響度): 一般会計から国民健康保険事業特別会計に繰り出している繰出金が標準財政規模に占める割合です。国民健康保険会計は、多くの自治体で累積赤字を抱えており、下水道事業会計と並んで一般会計からの繰出金が大きい場合が多く見られます。この指標値が10.0%以上の市町村は値を赤字としてあるほか、大きいほど偏差値も高くなるよう計算しています。
  • 2030年老年人口比率(住民の負担能力): 2030年の将来推計人口に占める老年人口(65歳以上)の割合です。この割合が極端に高い場合は、整備後の接続率の伸びが期待できなかったり、受益者負担金、下水道使用料、租税(一般会計繰出金)等の負担能力に問題が生じる可能性があります。この指標値が1/3(33.3%)以上となる市町村は値を赤字としてあるほか、大きいほど偏差値が低くなるよう計算しています。
  • 2030年人口に対する現在整備済人口(整備の飽和度): 公共下水道、特定環境保全公共下水道及び農業集落排水事業による現在処理区域内人口の2030年将来推計人口に対する割合で、下水道整備の飽和度を示します。100%以上の場合は、人口減少下の将来(2030年)人口に対して現在でも整備が十分であることになります。この指標値が100%を超える市町村は値を赤字としてあるほか、大きいほど偏差値が低くなるよう計算しています。この指標は、整備効率の向上とコスト縮減の観点から下水道整備計画の見直しを行う余地が大きいことをも意味しており、当該計画の見直しの際に民間の技術やノウハウを導入することが有効と考えられます。
  • 整備済区域内人口密度(整備の経済性): 公共下水道、特定環境保全公共下水道及び農業集落排水事業による現在処理区域内人口が現在処理区域面積に占める人口密度で、整備の効率性を示します。特定環境保全公共下水道事業の採択要件の一つが40人/ha以上(計画値)とされていることを踏まえ、この指標値が40人/ha未満の市町村については値を赤字としてあるほか、大きいほど偏差値が高くなるよう計算しています。


■SPIの市町村ランキング


 SPIによる地方別・市町村別のランキングは、PDFファイルで掲示しています。下のリンクからご覧ください。都道府県ごとの集計など、より詳しい内容については別途お問い合わせ下さい。

 なお、平成19年12月改定後の公共サービス改革基本方針(別表)では、下水道事業に関して国が平成19年度に講じるべき措置の一つとして、「地方公共団体に対し、下水処理場等の包括的な民間委託の実施の必要性について改めて周知するとともに、その実施に当たっては、より透明性・競争性を高め、民間事業者の創意工夫を活かす観点から、下水道の維持管理サービスに係る業務指標(PI)を用いて要求水準を設定する契約手法が可能であることなどを周知する」ことをあげています。

 下水道事業に関するPI(Performance Indicators)については、IWA(International Water Association:国際水協会)から "Performance Indicators for Wastewater Services" が2003年に出版され、またわが国では2007年3月に「下水道維持管理サービス向上のためのガイドライン(2007年版)」が日本下水道協会から出版されています。さらに2007年12月には、上下水道サービスに関する国際規格がISO24510、ISO24511として規格化され、その中で水サービスの評価ツールの一つとしてPIシステムが位置づけられました。このように、上下水道サービスにおけるPI導入の動きは極めて活発なものがあり、その適用範囲は、施設のパフォーマンスだけでなく事業の経営や運営までを包含するものになっています。

 今回のSPIは、下水道事業への民活導入推進の適性を評価するための指標として提案したものですが、事業の健全な経営を確保するために官民双方が具体的な行動に結びつけられるような指標とすべく、さらに改良を加えていく予定です。


 ●平成18年度版はこちらをご覧下さい。

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