トピックス  No.2 06/06/12  最終更新10/06/14

覆面座談会(第二弾):民営化を進めるための障害とは

  2006年03月15日 月曜日 15:00~20:00
  2006年05月19日 金曜日 15:00~17:00
  2006年06月01日 木曜日 15:00~17:00
  出席者:経営工学研究所 ●,■,▲,◆

 我が国の上下水道事業の民営化は,施設の維持管理の包括的委託といった形で部分的に進んでいますが,全面的な民営化は未だ行われていません。それはなぜなのか,その理由と,民営化を推進するには誰が何をすべきかについて議論しました。

新着情報

ご案内

業務実績

トピックス

調査研究

セミナー・掲載記事

研究所紹介

サイトマップ

ENGLISH


お問い合わせ


日本上下水道設計(株)


■民営化が進まないのは法律が原因か

■今回は,上下水道事業を民営化する際に障害となるものが何かを具体的に探っていきたい。

◆下水道法,浄化槽法,建築基準法,水質汚濁防止法,廃棄物法を見ると,例えば,下水汚泥は廃棄物法で産業廃棄物と位置づけされてものの,その処理処分は廃棄物法ではなくて下水道法で規制されている。下水道法は国土交通省所管,廃棄物法は環境省所管ということで,同じような規制を別々の法律でかけているのは素朴に変だと思う。こういうものを一本化すればずいぶんすっきりするし,民営化も進みやすくなるのではないでしょうか。

■下水道事業の管理者は,下水道法では地方公共団体しかなれないが,官しかできないとされている「行政行為」が何かというと,例えば特定事業場(工場)排水の取り締まりや,水洗便所への改造命令,使用料の強制徴収といったものだ。役所でこういった事務にどれだけ時間をかけているかというと,悪質な工場や住民がよほどたくさんいない限りは,実質的にほんのわずかだと思う。(編注:行政行為とは,監督処分や罰金徴収等,特定の国民の権利義務を一方的に決定する行為。特定人の法的地位に変動を及ぼさない,施設の管理や清掃業務等は,事実行為と呼ぶ。)

▲警察が行う駐車違反の取り締まりが民間委託されるようになった例を考えれば,法執行の委託だって可能ではないでしょうか。

■それはちょっと乱暴な言い方だな。あれは,「放置違反金をとられる可能性がありますよ」という警告ステッカーを民間業者が貼って回るということで,民間業者が自分の判断ですぐ違反金をとるわけではないよ。ただ,法執行の一歩手前までは民間でもできるということだね。

●同じような規制が別々に存在しているのは,要はセクショナリズムの話で,なにか考えてるわけでもなんでもないんだよ。だから,現在ある法律の土俵に乗って提案しても無駄無駄!そんな野暮な話をしてもしょうがない。法制度や手続きに問題があって民営化が進まないのではなくて,役人が民営化しないほうがいいと思ってるのが本音なんだよ。役所がやっても悪いことはないとか,そもそも役所でやった方がいいと思っている人に,そうではないんだと説得することが必要だ。

■下水道について言えば,これから着手するところなどは,人口は減るし財政難だしで,本音では「下水道なんてどうでもいいや」と思っていることも。以前と違って最近は予算も減らされて,役所の中での立場も弱くなってるしね。予算はおおよそ福祉の方に優先的に回る。

●実質的な運営管理も全部委託になってきているから,中途半端な民営化でなく,全部をやる位でないと話が進まない。屁理屈を言う人を言い負かし,証拠を示して民活を推進するような話じゃないとだめ。委託の範囲を徐々に広げるなんて話ではないんだよ。

▲相変わらず手厳しいっすねぇ...

■下水道法の歴史を紐解くと,昭和32年に建設省が出した新下水道法の法案で,下水道事業は認可を受ければ民間(地方公共団体以外の者)でもできる,とされていたのが興味深い。ただ,義務違反に対する措置は行政しかできないとか,団地開発で作った既存のコミプラの管理がうまく行っていないとか,下水管は公道の下を占用するからといった理由で民間は下水道管理者になれなくなった。

●例えば下水道と浄化槽を一本化できないか,と提案しても,市町村から要望として持っていかないと話は進まない。NJSE&Mが内閣府に出した要望に対して(編注:平成16年11月に内閣府の「全国規模の規制緩和・民間開放要望」に下水道と浄化槽の一本化等を提案したもの),国交省の回答では,できない理由として二重投資の恐れがあることを挙げているが,こんなのは大きなお世話で,要は国交省の金と環境省の金を混ぜたくないだけじゃないのか。個別の事業に国が口を出すような形はやめさせないと駄目だ。

■確かに,内閣府の人と話をしても,市町村にニーズがありますかということを聞いてくる。法改正はすぐには無理だから,ニーズがあるならとりあえず経済特区として申請する方法なんかを逆提案されたりする。そもそも法改正というのは大変な作業で,省内で様々に議論した内容のごく一部しか通らないのが普通だし,内閣法制局に話を持って行っても,現行法で読める(対応可能)ならあえて法改正の必要なし,として却下されることも多いそうな。利害関係者からのプレッシャーは当然大きいだろうし,それこそ非合法的な抵抗だって覚悟しないといけない場合さえある。社会的な正義がある場合なら,マスコミに入ってもらって世論を動かしていくことも考えるべき,なんて意見もあるくらいだ。


■民間ではできるが,役所ではできないことは何か

■民営化が進まないのは法律が決定的な原因ではないとなれば,民間ではどうしても無理だから役所じゃないとダメとか,逆に,役所ではできないから民間じゃなければダメ,ということが何かあるかをあぶり出したい。

▲役所と民間の大きな違いとして,役所どうしの競争は実はコスト削減に帰結しないのではないかと思うのですよ。役所どうしの競争は権限の奪い合いのような形になり,詰まるところは新しい住み分けのルールづくりに収束するんじゃないかと。役所間の競争は,どちらが効率的にうまく事業を運営できるかではなく,どちらが正しいか,間違っていないかで決着がつく。白黒つけられないところは玉虫色になる。

▲マスコミは意志決定や利害調整の流れが民間と異なることを理解していないから,役所がサボタージュしているようにとらえているが,それでは事態を正確には認識できない。役所はいかに間違いのないように仕事をするかを突き詰めるための組織で,効率云々のための組織ではそもそもないのではないかと思うのです。だからこそ,効率で測ることができる事を役所にやらせるのはお門違いとも言えますが。

■役所では各担当ごとに所掌事務が決まっていて,それ以外のことをやるのは越権行為だ。だから役所間で競争をすると権限の奪い合いということになるんだろうね。民間では,一応仕事の分担は決まっているが,順法的に会社の利益につながることであれば基本的には何をやってもよい。この辺は大きな違いといえるね。

◆役所の仕事は非効率だと言われてますが,これは一面的すぎるんじゃないですか。そもそもやっている仕事が公共の利益のためなので,効率的に進めるより,手間がかかっても手続きを重視して,間違いのないようにする制度になっているととらえる方がいいのかなと。

■役所の人事評価では,頑張れば給料が増えるといった成果主義は希薄だ。やる仕事が最初から決まっていて,必要な人員も定数で確保されているのだから,頑張りようがない。下手に残業なんかすると,能力がないと見なされてしまう。

◆役所では2~3年で人事のローテーションが組まれている。行政全般を把握するジェネラリストを育てるのと,民間業者との癒着を防ぐというのが目的でしょうけど,頻繁な人事異動にも堪えうるのだから,それほど専門性は問われず,誰にでもできるものと言えますね。

▲ひと言でいえば,役所は金よりも公共の利益を大切にし,民間は公共の利益よりも金を大切にするということですね。

◆役所は商売をするところではないし,そこで働く役人には商売っ気がないから,そもそも効率を考える必要がないですね。

▲市長部局と公営企業ではまた違うでしょう。公営企業で利益を上げても職員に見返りがないのが役所で,これがコスト意識が働きにくい大きな理由だと思う。

◆でも,民間会社の中にも官僚的というか,結構役所みたいなところがありますよ。逆に,役所でも首長の才覚次第で随分と効率追求の意識が高いところもあります。合併しない宣言で有名な福島県の矢祭町なんかは,町長さんの号令下ですごく役場内の士気が高いようです。

■要は,首長さんに既存の役所のシステムを変える意志があるかということだ。能力主義や成果主義といった民間のシステムを役所の中にうまく取り入れることができれば,役所の効率性も民間と変わらなくなる。

■どうも役所でなければダメ,民間でなければダメといった決定打は出てこないね。せいぜい,民間では効率性の追求がやりやすいといった程度だ。それに,単に民間が役所にとってかわるだけなら,競争が働かないので結局役所と変わらなくなるのではないかな?独占の弊害が根幹にある,というだけの話で,役所と民間の違いじゃないでしょう。

▲その点,市場化テストは,民間的な評価の仕方や基準を役所に強制的におしつける取り組みです。効率性の追求にはきわめて効果的かつ有効な手段といえるでしょうね。これに役所的な方法で抵抗するには,法律で決まっているからできないといった制度的な問題を主張したり,民間だと秘密保持ができないとか倒産夜逃げするとかいったような万が一のリスクを持ち出さしたりせざるを得ません。言いがかりのような抵抗ですから,大概,誰が見ても抵抗勢力にしか見えなくなります。そういう意味ではうまい取り組みといえるでしょう。


■民間は責任を取らない,取れないのか

▲「民間はなにかあったときに責任を取らない,取れない」なんて言う人もいますが,実際のところどうでしょう。たとえば,国立法人が独立行政法人になった際,従来は不祥事でも事故でも最終的にはすべて国家賠償されたものが,独立行政法人になったら,組織的な手続きがしっかりされていない場合には最終的に個人が賠償しなければならなくなった。ということはある意味,むしろ役所の方が責任を取らないともいえるのではないかとも思えるんですが。

▲また,役所は民間よりも大きなリスクを背負えるのですが,これはリスクマネジメント能力が高いせいではなく,最終的なリスクテイカーが国民や住民であるということに過ぎないのではないかと。何かあれば国家賠償法により最終的には税金で払う。役人個人のリスクとしては懲戒免職や減給等があるが,普段通り間違いなく法令や条例に反しない仕事をしていれば,リスクはないようなものといえるでしょうね。

◆水道法では,事業者が水質基準を満たさない水を供給しても刑事罰がありません。ただし,損害賠償を請求することは民法やPL法(製造物責任法)によって可能と考えられます。ほかには事業認可,管理,水質検査等について罰則規定があります。ただ,こうした瑕疵責任を問われる人が担当職員なのか,水道技術管理者なのか,水道事業管理者なのか,首長なのかはなお調べる必要があります。

◆たとえば電気事業を考えてみれば,民営であっても誰も「責任を取らない」とは思ってないですよね。これはどう考えるべきでしょうか。

■電気事業は事業法で相当な規制を受けているので,それがなければ野放し状態で悪質な業者が出てくるかも知れない。

▲昔,ニュージーランドの電気事業が公営で,これを民営化する調査のために日本に来たとか。日本の電気事業が民営でも問題ない理由を聞かれたそうな。民間は責任を取らないというのは,単なる思い込みのような気がするんですよ。

■民間が技術的にも資本的にも十分に育って,かつ役所が民間の首根っこをきちんと押さえれば問題はないということだろうね。また,想定されるリスクを保険でカバーすれば,民間でも大体のリスクは背負うことができる。

▲以前,完全民営水道の査定を行ったことがありますが,その時の印象では,現場の作業員が本当に頑張っている感じでした。ただ,民間だから効率的に運営されているのかというと,過大な計画を抱えていたりしてそうとも言えない。投資や経営に戦略が欠如するリスクがあるということについては,実際のところ民営でも同じではないかと思いました。


■民営化を進めるためには

■以上話をまとめると,法律は民営化の決定的な障害ではない,事業のプレーヤーとして役所も民間も基本的には変わらないが効率の追求の点では民間の方がやや有利,民間だと責任を取らない,取れないということはないが,役所が民間の首根っこをしっかり押さえることが必要ということだね。あとは,優れた民間プレーヤーと民営化の仕掛人が必要ということになる。

■新しい事業スキームや経営スキームの提案をメーカーやゼネコンが行うと,役所の方も物を売りつけられるんじゃないか,と,一歩引いてしまう場合が多いようだ。やはり,物を売ることが目的でないコンサルタントが提案していくべきだろうね。相手は,行政の代表である首長にするのがベストだろう。上下水道事業を役所がやるか民間がやるかの判断は,最終的には首長だからね。また,財政当局の職員とのパイプも必要だ。

▲首長も政治家なので,時には資金力が物を言うこともあるだろう。資本力があれば海外の水道会社のようにさまざまなロビー活動ができるかもしれない。その点でNJSは他の同業コンサルタントに比べれば資金潤沢な点で強みを発揮できるかな。

■上下水道のコンサルタント業界は,大体が小さくて弱いから,相当頑張らないと上下水道業界全体を統合するような活動を主導するのは難しい。M&A等によりコングロマリット化を図り事業分野を拡大することは必須だろうね。また,マネージメントのコンサルタンティングサービスは必ず必要とされるだろう。役所に代わって事業そのものがうまく動くように,段取り全般から監視と指導を行うような。

▲民活の提案を首長に発信していくためには,相応の情報発信力が必要ではないか。そのための方法にはどのようなものがあるだろうか。

◆ホームページやメルマガ,あるいはその双方を活用するといいかも知れませんね。事業全体をマネジメントすることに関する豊富な実績や,その実績から導かれるプレゼンテーション能力も必須です。


■その後の動向(10/6/14追加)

 東京都や大阪市、横浜市などの政令市では、自らの外郭団体を通じたり、官民の連携によって、海外の水道に事業展開を図る動きが出ています。

 こうした動きを受けて、平成22年3月に総務省を事務局として「地方自治体水道事業の海外展開検討チーム」が設置されました。このチームが先般、平成22年5月末に公表した「中間とりまとめ」では、自治体の水道事業体が海外への技術援助だけでなく、海外の水道事業の運営に直接携わることについて、次のような官民連携による方法が現実的と整理しています。

①水道事業体と民間が第三セクターをつくり、他の民間会社とのコンソーシアムを結成する。水道事業体は、第三セクターへの出融資のほか、人材派遣を行う。
②水道事業体と民間がコンソーシアムを結成し、水道事業体は技術的支援にとどめる。

 この①について、例えば東京都水道局の外郭団体である東京水道サービス㈱は、東京都水道局だけでなく民間7社との共同出資による第三セクターであるため、直ちに適用可能です。一方、横浜市水道局が新たに設立する「横浜ウォーター㈱」は、横浜市の100%出資会社になりますので、このスキームにはあてはまらないことになります。

 また、自治体の職員を第三セクターに派遣する場合の派遣法(公益法人等への一般職の地方公務員の派遣等に関する法律)の適用については、その第三セクターの主たる業務が公益寄与業務と認められる場合は、派遣法の対象とする(3年以内の退職派遣として元の職場に復職できる)と整理しています。

 ②における官民連携でのコンソーシアム結成については、「本来事業と密接な関係にある場合」または「本来事業にかかる資産、知識及び技能を有効活用する場合」で、本来事業に支障を及ぼさず、十分な採算性を有するのであれば、地方公営企業法上の附帯事業として実施可能とされています。

【関連トピックス: 覆面座談会(第一弾):市場化テスト法案と上下水道界への影響


トピックスに戻る